晩年、米長は弦巻氏にあることを漏らした

強烈なキャラクターの一方、将棋界きっての読書家として知られた

 晩年、闘病中だった米長さんが僕にポツリと漏らしたことがある。
「僕がこの世からいなくなったら、ツルさんは少し困ることになるよ」

 将棋連盟の「反・米長勢力」は、僕のことを良く思っていないので覚悟しておいたほうがいい──という忠告だったのだろう。いかにも米長さんらしい言い回しだったが、僕は打算で付き合ってきたわけではなかったのでこう答えた。

「大丈夫さ。僕はどうなっても、ヨネさんと出会えてよかったと思っている。それが友人というものだから」

 米長さんが世を去って10年以上が過ぎた。あのときの「予言」は、幸いにも外れてくれたような気がする。

物議を醸した「砂丘ヌード」

 米長さんとの出会いは1977年。『週刊ポスト』で始まった「アマチュア指南道場」という企画で僕が撮影を担当したのがきっかけだった。3ヵ月に2度のペースで、全国の将棋連盟支部を旅して回るこの連載は予算も潤沢で、米長さんにとっても羽を伸ばせる楽しみな仕事だったと思う。

 良くも悪くも話題を呼んだ、米長さんの有名な写真がある。1985年に撮影した「砂丘ヌード」だ。この写真は新潮社が発行する写真週刊誌『FOCUS』に掲載されたものだが、男性トップ棋士が全裸で鳥取砂丘に立つという常識的には考えられない写真で、話題になったというより“物議を醸した”といったほうが正しいかもしれない。

 米長さんと僕は『ポスト』の取材で鳥取を訪れていた。10月中旬で、米長さんは中原誠さんの挑戦を受ける「十段戦」(読売新聞社主催のタイトル戦で「竜王戦」の前身)の第1局を5日後に控えていたタイミングだった。

 ライバルの中原さんは宮城県塩竈市の出身だが、正確な出生地は鳥取市で、生後1ヵ月後に宮城県に移り住んでいる。米長さんとしては、中原さんが生まれた鳥取の地で裸一貫、勝負をかけるという思いを表現したかったのだろう。常人にはない発想だが、それが狂気の男、米長邦雄の真骨頂である。

 その頃すでに、米長さんと僕の関係は深かった。この写真はどちらが提案したものでもなく、その場の流れで撮った完全なアドリブである。

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