これまでアメリカは、「戦争を早期に終結させるため」「アメリカ人兵士の命を守るため」といった理由を掲げて、原爆投下や都市空襲を正当化してきた。しかし、数百万人にも及ぶ無辜の人々の命を奪ったのは、まぎれもない事実であり、その事実に向き合うことで、アメリカは変わるとパストリッチ氏は主張する。
大統領選候補といっても、共和党と民主党が戦うアメリカの大統領選において、パストリッチ氏が大統領になる確率は限りなくゼロに近い。しかし、だからといって、何の影響もないとは言い切れない。
アメリカ緑の党は、党名から連想されるように環境政策を重視するリベラル寄りの政党で、国会議員は1人もいないものの、大統領選にはこれまで何度も公認候補を出馬させている。2000年に共和党のブッシュと民主党のゴアが戦った選挙では、アメリカ緑の党はラルフ・ネーダーを公認し、得票率は2.7%だったものの、ブッシュとゴアの得票が極めて僅差だったため、もしネーダーが出馬しなければ、その票がゴアに流れ、結果は逆転していたのではないかと取り沙汰された。つまり、自ら当選する目はなくても、選挙の趨勢を左右する存在になる可能性はある。
2016年5月27日、アメリカのオバマ大統領(当時)は、歴代大統領としては初めて広島を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花した。今年5月19日には、広島サミットのために訪日したG7各国の首脳が原爆資料館を訪れ、その中にはバイデン大統領の姿もあった。
何がどう転ぶかは予測がつかないが、少なくとも民主党支持者には、パストリッチ氏の主張が届きやすくなっていると考えられる。戦争が終わって80年余りが経てば、原爆投下や空襲の直接的な関係者はほとんどが鬼籍に入っている。謝罪できる環境は整いつつあり、もし実現すれば、日本とアメリカの関係は新たな段階に進めるのではないか。