岡田茉莉子

「これから悲しみが来るんでしょうね。どうしましょうか」

 最良のパートナーを得た吉田さんは生前、「茉莉子さんと同じ日か、一日だけ早く死にたい」と話していた。

「まだまだ一緒に過ごすつもりでしたし、夫が“終活”をしていた記憶はありません。けれど、もともときれい好きだったうえ、何年か前から大事にしていた専門書を大学に寄付するなど、書斎をきれいに片付けていました。いま思えば、年齢を考えてのことだったのかもしれませんね」

 そのため、「死後の手続き」や「片付け」に苦労することはなかった。

「お葬式も親族やごく親しい人たちですませましたし、私の家に吉田が入って来るという形で結婚したゆえ、お墓も岡田家に入ることになるので、納骨にまつわる手続きもそれほど大変ではありません。

 お坊さんからも『急いで納める必要はない、いつでもいいですよ』と言われていますから、まだ一緒にいたくて、応接間のいちばんいい場所に写真とお位牌とお花と一緒に置いています」

 手続きに忙殺されることのなかった岡田にとって唯一苦痛だったのは、相続にまつわる手続きだったという。

「手続きそのものというよりも、心情的なものが大きいですね。まだ夫を失った実感がない中で夫側の親族と顔を合わせて、お金に関する話をすること自体、精神的につらい。だけど不思議なことに、夫の死を悲しむ気持ちはいまだ湧いてきません。だから先立たれたことを受け入れるのはまだ先になりそうです。これから悲しみが来るんでしょうね。どうしましょうか」

【プロフィール】
岡田茉莉子(おかだ・まりこ)/1933年東京都出身。女優、映画プロデューサー。1951年に東宝ニューフェイスとして芸能界入りし、成瀬巳喜男監督の『舞姫』でデビュー。『秋津温泉』のメガホンをとった吉田喜重さんと1964年に結婚。公私共に重要なパートナーとして数多くの映画作品を発表した。

※女性セブン2023年11月2日号

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