1976年・アリ戦

1976年・アリ戦

プロレスは筋書きがあるからこそ楽しめる

 私は現在、歴史に焦点をしぼった人文学の仕事をしていますが、もともと工学部(京都大学)出身のエンジニアでした。

 学者として大きな進路変更を模索した時、ひとつの岐路がありました。人文学の世界になるべく溶け込む努力をするか、それとも自分のやりたいことだけを、わがままに突き進むか。私は後者を選びました。

 ちょうどそのころ、猪木さんが異種格闘技路線を打ち出し、独自の道を開拓していたところでした。当時の私は自分の「人生の選択」を、リング上で戦う猪木さんとオーバーラップさせていたような気がします。

 私が最初に出した著作『霊柩車の誕生』(朝日新聞社、1984年)は多くの人文系の研究者から「これはいったい“何学”なんだ?」と揶揄されました。私自身、どの学問に分類されるものかわかりませんでしたが、それが面白いと思ったから、後先を考えずに書きました。

 私の背中を押ししてくれたのは、間違いなくアントニオ猪木でした。

 プロレスには筋書きがある。だから面白くない──私はそうした一般的な世間の価値観に反発心を持ってきました。筋書きがあるからこそ楽しめることもある。

 プロレスを「八百長」と言うなら、世の中に「八百長」は満ちあふれています。プロレスのリングで起きていることは、社会の縮図であり、人生を映す鏡でもあると私は考えています。

「迷わず行けよ、行けばわかるさ」という猪木さんの言葉を信じて痛い目にあった人もいるでしょう。しかし、行かなければ見えない光景はやはりある。私にとって、猪木さんは進むべき道に導いてくれた恩人ですね。

取材・文/欠端大林(フリーライター)

※週刊ポスト2023年11月10日号

関連記事

トピックス

木本慎之介
【全文公開】西城秀樹さんの長男・木本慎之介、歌手デビューへの決意 サッカー選手の夢を諦めて音楽の道へ「パパの歌い方をめちゃくちゃ研究しています」
女性セブン
綾瀬はるかが結婚に言及
綾瀬はるか 名著『愛するということ』を読み直し、「結婚って何なんでしょうね…」と呟く 思わぬ言葉に周囲ざわつく
女性セブン
強く、優しく、凜とした母を演じる石田ゆり子(写真/NHK提供)
《『虎に翼』で母親役を好演》石田ゆり子、プロデューサーや共演者が驚いた“愛される力”「ストレスかかる現場でも動じない人」
週刊ポスト
「夢みる光源氏」展を鑑賞される愛子さま
【9割賛成の調査結果も】女性天皇についての議論は膠着状態 結婚に関して身動きが取れない愛子さまが卒論に選んだ「生涯未婚の内親王」
女性セブン
羽生結弦のライバルであるチェンが衝撃論文
《羽生結弦の永遠のライバル》ネイサン・チェンが衝撃の卒業論文 題材は羽生と同じくフィギュアスケートでも視点は正反対
女性セブン
“くわまん”こと桑野信義さん
《大腸がん闘病の桑野信義》「なんでケツの穴を他人に診せなきゃいけないんだ!」戻れぬ3年前の後悔「もっと生きたい」
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
中森明菜
中森明菜、6年半の沈黙を破るファンイベントは「1公演7万8430円」 会場として有力視されるジャズクラブは近藤真彦と因縁
女性セブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
昨年9月にはマスクを外した素顔を公開
【恩讐を越えて…】KEIKO、裏切りを重ねた元夫・小室哲哉にラジオで突然の“ラブコール” globe再始動に膨らむ期待
女性セブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン