木村:キャストが発表されていませんが、歌人で紫式部とともに彰子に仕えた和泉式部も気になります。こちらは道長の召人(傍近くで寵愛を受ける女性)だったと思います。理知的というよりは情で動くタイプで、恋多き女性でもありました。
本郷:冷泉天皇の2人の皇子を手玉に取る感じが、僕は好きですね(笑)。ただ和泉式部の和歌を読み、「この人は深い女性だなあ」という感想も抱いた。
僕は、藤原公任(町田啓太)もキーマンになると思います。道長の父・兼家(段田安則)が息子たちに「公任さんみたいになるんだぞ」と言うくらい優秀な人物です。
木村:紫式部も、“公任がいる前で「歌を詠め」と言われてすごく緊張した”と書いています。
玉座に生首
本郷:当時の人物の内面を描くには、歴史研究に加え、木村先生のような国文学者の助けを借りてキャラクターを深掘りしたほうが“時代感”が語れる気がします。
木村:その意味では、歴史と文学が相乗りした珍しいドラマだと思います。
本郷:『源氏物語』の光源氏のモデルが道長か否かという議論についてはどうお考えですか?
木村:私は道長ではないと思います。道長は左遷されていないし、不遇な思いをしたことは一度もない。むしろ父・兼家だと思います。
本郷:僕も光源氏のモデルは兼家かなと思います。
木村:兼家は妻の藤原道綱母が書いた『蜻蛉日記』では好人物ですが、平安後期の歴史物語『大鏡』では策略家で、ほとんど暴力的に権力を手に入れた人物と書かれています。
本郷:映画『ゴッドファーザー』のように、兼家一家、道長一家、伊周一家と、ファミリーの勢力争いが時に暴力的に描かれる可能性はありますね。
木村:“呪い”が用いられるかもしれません。その点、ユースケ・サンタマリアさん演じる安倍晴明には要注目です。
あと兼家にはこんなエピソードがあります。孫の彰子や定子を嫁がせた一条天皇が即位する儀式の日、その儀式を中止に追い込むためなのか、誰かが玉座に生首を置いた。臣下が慌てて報告に来て「今日は中止しますか」と聞くも、兼家は寝たふりをしたうえ、「準備は終わった?」と平然と答えたそうです。臣下は兼家の強心臓におののいたとか。まさに『ゴッドファーザー』の世界観です。