たとえ質が悪くても違法配信が視聴されることで、無法者に収益は入るが、正規配信元や興行主、なにより主役である競技者には正当な報酬が届かない。その結果、業界全体を縮小させている。佐藤さんは、こうした違法配信者を逐次、それぞれのSNS運営側に報告するとともに、事前に対策をとるべく関係者間で協議を行っている。だが、具体的に彼らを駆逐できる効果的な手段はないのが実情だと肩を落とす。
さらにこうした傾向に拍車をかけているのが、「解説系」といわれる違法配信者の急増だ。大手民放のスポーツ局勤務・小島はるかさん(仮名・30代)が語気を強め訴える。
「映像を勝手に使って”解説”をつけ、いかにもオリジナルなコンテンツ風に配信する人が少なくないのです。見つけたらその都度、削除要請をしていますが、数が多すぎて追いつかない。以前、ある違法配信者を相手取り裁判になったことがあるのですが、最後まで自身の違法性を認めず、本当に大変でした。悪びれる様子はまるでなく(視聴にかかる料金が)高すぎるのが悪い、と開き直る始末」(小島さん)
このような光景は以前、ネット上に「ファスト映画」とよばれる動画を理由に、男女らが逮捕された事件を彷彿とさせる。ファスト映画とは、映画本編の映像を10分程度の映像にまとめ、字幕やナレーションをつけてネット上にアップロードしていたものだ。制作者側の了解はもちろん得ていないため、複数の男女が著作権法違反で逮捕された。だが彼らからは、「見やすいようにまとめているだけ」「多忙な人たちからは感謝されている」など、荒唐無稽で自分勝手な言い訳にもならない供述が飛び出し、関係者たちを唖然とさせた。彼らは刑事事件で逮捕、起訴されたのち、映画会社などから巨額の損害賠償請求の訴訟を起こされ、支払いを命じられている。
同じように今、動画サイト上にはスポーツコンテンツを使った違法な「解説系」動画があふれており、中にはアップロード後数時間で10万近い再生数を稼ぎ出す解説系動画も存在する。
「とにかく早く、わかりやすくがモットーですね」
匿名姓の高いメッセージアプリを通じ、筆者の取材に応じたのは、YouTube上にアメリカプロバスケットボール「NBA」の映像を違法に使用した「解説系」動画をアップロードし続けているユウさん(仮名)。全く悪びれる様子を見せず、矢継早に、身勝手過ぎる持論を展開する。
「八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)や渡邊雄太(フェニックス・サンズ)ら日本人の活躍で、NBAの人気はかつて無いほど高いです。でも、それらを視聴するには月に何千円もかかり、視聴したくてもできないユーザーが多数いるでしょう? 本来ならテレビ局が放送すべきなのに、マスコミに金がないから実現しない。こんなことをしていると、バスケ人気も下がり、ファン層の裾野が広がりませんよ。バスケの素晴らしさをもっと世に広めたいという気持ちだけでやっているんです」(ユウさん)