「働き方改革」に突きつけた「制作者の心」の問いかけ
続いて、渚が上司の瓜生プロデューサー(板倉俊之)との間に繰り広げる会話バトルも大きな見どころだ。渚は突然、ちあきあおみの『四つのお願い』の替え歌を歌い出す。「お願い」には「ペーパーレスは急がないで」もあって、瓜生Pが「上層部がペーパーレスを推進している」と言い訳すると、渚の反撃がとてもリアルだ。
(渚)「その上層部が対応できていない。『台本は紙でくれ』『映像資料はDVDに焼いてくれ』と。そのたびに私たちの仕事が増えるんです!」
この後で渚が語った言葉が“テレビの制作現場”と「働き方改革」との矛盾を言い当てていた。
(渚)「多少、残業になっても、部下の企画書を読む時間くらい、つくってください。それくらいの融通。計らい。遊び。それないと面白いもの(=テレビ番組)なんか生まれません」
(谷口)「そうやって例外を認めたら、過労死が出るんだよ」
(渚)「社員のやる気を削ぐのが働き方改革ですか?」
(谷口)「限られた時間と予算の中で最大限の努力をしろと言っている。いいかい。僕は君に職場復帰しろとは言ったけど、面白いものを作れとは言っていないよ」
(渚)「あんたは正しいだけで心がない」
「正しいだけで心がない」というセリフこそ、テレビの取材・報道現場での「働き方改革」の問題を正確に言い表す言葉はないと筆者は感じる。
テレビの取材・制作現場では、長く働いてこそ覚えていくスキルや気づきが少なくない。少なくともある程度以上の年代になれば、長く働いていって番組などが向上していく経験をした人間が数多くいる。取材や編集などでじっくりとその問題や映像とにらめっこするうちにアイデアなどが生まれていく。ただ長く働いていればいいという単純なものではないことは強調しておきたいが、自分が熱意やこだわりを持って長い時間かけてテーマに取り組むことがテレビ番組をより面白くしたり、活性化させたりすることが実際にあることは経験的な事実である。
働き方改革は「正しいだけで心がない」。これが働き方改革でテレビなどの制作・報道現場で起きてしまっている“負の側面”といえる。