ただしナイチンゲールが90歳まで生きたのに比べると、彼女に協力した人たちの多くが短命に終わっているのも無視できない事実だ。
「ナイチンゲールには、我を失うというか自分を消滅させても動くところがあって、それが人を感動させるし、周りにも火をつける。火をつけられた人も近代的個人を超えた超人になり、限界を超えて働くので、人によっては死んでしまうこともあったのでは」
依頼を受けてから動くべき、とする最近のボランティア自粛の流れにも一石を投じる本だ。
文章に疾走感があり飽きさせない。あるときは講談調、あるときは長渕剛が乗り移り、ダイナミックに「超人」の生涯を語り尽くす。
「ナイチンゲールの言葉に自分を同調させるとリズムが生まれてくる。その人とおしゃべりするイメージなんですけど、相手は死んでるので、ある意味、ぼくも幻聴を聞いているのかも……。ナイチンゲールに書かされたイメージです」
ナイチンゲールの発想はいまの「ケア」に近いというのも発見だったそう。
「『病気とは回復過程である』と言って、病気と健康状態を区別してないんですよね。クリミア戦争のときに兵士たちがバタバタ死んだのは、当時、原因がわかってなかった感染症で、医者はまったく動けないんですけど、ナイチンゲールは患者に自分が一体化するところから解決の糸口を見つけていく。実践ありきで生まれた思想なんです」
【プロフィール】
栗原康さん(くりはら・やすし)/1979年埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に『大杉栄伝 永遠のアナキズム』『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』『アナキズム 一丸となってバラバラに生きろ』『サボる哲学 労働の未来から逃散せよ』などがある。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2024年2月22日号