しかし、近年はOBでコーチの石田寿也が中学校を回り、作成したおよそ200人のリストの中から、西谷が2~3年後のチーム編成を想像し、選手の適性を見極め、声をかける。そうして大阪桐蔭に入学し、プロ野球選手となったのが横浜DeNAの松尾汐恩だ。今季、開幕一軍が期待される19歳の若手捕手である。
「僕は西谷監督と出会っていなければ、プロ野球選手になれなかったかもしれません」(松尾)
松尾は当初、ショートとして大阪桐蔭に入学した。しかし、2020年の秋季大会中、松尾は捕手に転向する。その経緯が面白い。西谷が振り返る。
「正捕手として考えていた上級生が不調で、肩にも不安があった。だから万が一に備え、急造の捕手を育成する必要がありました。実は中学時代の松尾を視察した時に、試合中にケガをしてしまった正捕手に代わって、マスクを被ったことが1イニングだけあったんです。単なるひらめきでしたが、松尾を捕手で起用したところ、守備はまだまだでも打ちまくったんです」
松尾は同年、近畿大会の準Vに貢献。世代ナンバーワン捕手となり、3年次のセンバツでは2本塁打を放って優勝した。西谷のコンバートがなければ、プロ野球選手になっていないかも──松尾がそう話すのも頷ける。
(第3回へ続く)
【プロフィール】
柳川悠二(やながわ・ゆうじ)/1976年、宮崎県生まれ。ノンフィクションライター。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、主にスポーツ総合誌、週刊誌に寄稿。2016年に『永遠のPL学園』で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『甲子園と令和の怪物』がある。
※週刊ポスト2024年3月29日号