内部情報の流出を警戒
この通達文の前後、稲川会は情報漏洩にかなりピリピリしていたのだろう。「日曜日の稲川会館での定例会時では、出席者全員の携帯を取り上げたそうだ」と、暴力団幹部はそう話す。幹部のいう日曜日とは、通達文が出る前の2月11日を指す。この日は稲川会館で定例会があったというのだから、通達文にある定例直参会があったのだろう。その席上で出席者らは全員、携帯を取り上げられたらしいのだ。そこで何があったのか、それとも定例会前、組にとって重大事案が発生したのか、さすがにそこまではわからない。だがこの後、通達文が傘下組織に出されたのだ。
通達文が出された理由は、記事にもあるように「情報漏洩を防ぐためだ」と幹部はいう。だいたいこの通達文ですら、出されたその日のうちに暴力団業界に流れていた。筆者のもとにこの通達文が送られてきたのはその翌日。この幹部の組は稲川会と友好関係にあると聞くが、別の暴力団組織に所属している。「通達文について記事にしてもいいか?」と尋ねたが、幹部に「すぐには出さないほうがいい」と止められたぐらいだ。
SNSの普及で組織に関わらず組員の誰かが何らかの情報を流せば、瞬く間に業界全体に広がり、あっという間にジャーナリストやメディア関係者にも届く。暴力団組員が関係する暴行現場の映像や事件現場の生々しい動画や、警察のガサ入れ動画などは瞬時に拡散されていく。「どこの組でも内部情報の流出には警戒している。組長の自宅や定例会の様子などが動画で流れれば、組にとっては大事だ。会話の内容だけでなく、建物内部の様子もわかってしまう。どの組もそれは阻止したいんでね」と幹部はいう。
組のためシノギのため、確実な情報をいち早く獲得しようとしてきたヤクザだが、その情報が今、彼らの脅威になっている。