約10年前、香港の赤線地帯(イメージ、dpa/時事通信フォト)

約10年前、香港の赤線地帯(イメージ、dpa/時事通信フォト)

 こう話すのは、元芸能事務所経営者の酒井大輔さん(仮名・40代)。経営者時代は、雑誌やテレビに「女性モデル」を斡旋する「表」の仕事のほかに、金に困った女性や、女性に金を貸し回収不能になった人物などから依頼され、風俗業者やアダルトビデオ業者に紹介する「裏」の仕事も行なっていた。

 数年前に酒井さんに筆者が取材していた時も、その手の電話がひっきりなしにかかってきていたことを鮮明に覚えている。「××という元歌手知っていますか? 借金があり風俗か海外出稼ぎを紹介してと電話が来ました」と笑っていたが、実際にその元歌手が間も無く、いわゆる「裏ビデオ」に出演していたのを知り、本当の話だったのかと驚愕したことを思い出す。

「ただ、中国人男性は金はあるものの態度が大きく、女の子に怪我をさせたりしてトラブルが相次いでいました。香港やマカオに行った後に失踪したという女性の話を聞いたのも、2、3回ではないです。そういう悪い噂が女性の間にあっという間に広がり、出稼ぎ先がオーストラリアや北米に移行したのは、コロナ禍前の頃だったと思います」(酒井さん)

 人が失踪しているのなら事件として報じられるはず、と思う読者もいるかもしれない。だが、香港やマカオで後ろ暗い仕事をした後、そのときの客からの甘言にのせられてカンボジアやベトナムなどへ連れて行かれると、もうその先の軌跡を追うのは難しくなる。そもそも、海外で出稼ぎを望むような女性たちだから、借金などで首が回らず、親や友人とも疎遠になっているパターンも多い。だから、失踪したところで誰も心配しない、探そうともしないという実情がある。だからこそ、こうして失踪した女性に関する具体的な被害報告や情報は表に出にくく、したがって新聞やテレビで大々的に報じられる機会もほとんどないのだ。

元”海外出稼ぎ女性”の体験

「香港の闇カジノに近いホテルで毎日、仕事をさせられ、体調不良などで断ると殴られ、何らかの薬物を投与された上で別の国に連れて行かれました。逮捕時も記憶は朦朧としていて、現地警察に聴取をされるまで自分がカンボジアにいることすらわからなかった。身も心もボロボロで、帰国後には3ヶ月間入院しました。でも、私は命は助かった。一緒に日本から出発した女性は、中国系の富豪と東南アジアに移動したそうですが、もう誰も連絡が取れない」

 時折目頭を抑えながら話すのは、10年以上前に香港のホテルで、毎日のように”出稼ぎ労働”をしていたという日本人女性・神田ルリさん(仮名・30代)。実は当時、海外出稼ぎに行く日本人女性のほとんどが、国内の風俗店で働く人々だったという。

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