ヤンキー時代の上下関係が今なお「生きている」こともあり、X男の主張を受け入れたフリをしていたが、ある時、橋本さんの生活を脅かすような事態に陥った。X男が、ヤンキー時代の「部下」をタグ付けする形で、陰謀論投稿を始めたのだ。
「ワクチンの死亡者が実は数万人いるとか、福島の原発処理水で魚に奇形が出ているとか、真偽不明の情報の投稿に、僕をはじめ、X男さんの後輩の十数人の名前がタグづけされたんです。何も知らない人から見たら、僕が陰謀論を信じているかのように見えてしまい、会社の同僚や知人から”お前大丈夫か?”と相当心配されたし、何も言ってこなくとも、あいつはやべえ奴だと思われているに違いありません。タグ付けをやめてほしいといった知人は、X男さんに”日本の将来がどうなってもいいのか”と相当怒鳴られたそうで、もう我慢するしかないんですよ」(橋本さん)
知人が陰謀論にハマったとしても、無視を決め込んだり距離を置くことによって、自身に降りかかる災いからは逃れられるかもしれない。だが、学生時代の先輩後輩関係、職場の上司後輩関係など、弱い立場の片方が「NO」といえない関係の中で、強い立場の人間が「陰謀論」を振りかざせば、否定することも逃れることもできないのだ。
スクールカースト頂点だった彼女がハマったもの
「学校中の男子生徒の憧れだったY子のSNSに、反ワクチンとか食品添加物がどうのという、訳のわからない投稿が増えたのは2年くらい前でしたね。最初は、子育てなどが落ち着いて、いろいろ勉強しているのかな?という風にしか思わなかったんです」
都内在住の公務員・吉田郁子さん(仮名・30代)は、美人でその名を他校にまで轟かせていたという友人Y子のSNSに、いきなり見慣れない文言が投稿され始めたのを見てギョッとした。ほとんど更新されていなかったY子のSNSタイムラインにある日、急にサラダの写真が大量にアップされ「ビーガン生活を始めた」と書き込まれたのだ。他にも、酵素やお酢などの健康食品がいかに良いか、新型コロナワクチンの代わりになる食材が存在するなど、いかにも眉唾な情報の書き込みが半年以上続いたという。
「なんか怪しいのにハマっちゃったね、と女友達同士でガッカリしていたんですが、Y子は美人。Y子がどんなに変なことを言っても、陰謀論の投稿にいいね押したり、コメントする男性ユーザーが何人もいるんです。だからY子も、自身の主張が受け入れられたと思ったのか、投稿数は日を追うごとに増えましたね。1日に何十回も投稿をして、コメントには”Y子さんすばらしい”とか”マスコミが言わない情報だ”とか、どこかの知らないおじさんのコメントが並んでいるんですよ」(吉田さん)
それから間も無く、吉田さんの耳に入ってきたのは、Y子はただ陰謀論にハマっただけでなく、SNSの投稿で吊り上げたかつての男子同級生や、SNS上で知り合った見ず知らずの男性たちを「マルチ商法」に引き入れていたという、驚くべき事実だった。