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農業技術を海外に投下しWin-Winの関係をと大前研一氏

 食料価格の高騰を前に、日本はどう対処すればよいか。経営コンサルタントの大前研一氏は日本人の技術とノウハウを使えば、穀物メジャーをも凌駕できると言う。

* * *
 日本は世界で最も農業に適していない国の1つである。なにしろ国土の70%近くが山地で、平野は約25%、農地は約14%に過ぎない。日本は田んぼの大きさが1反を基本としているように農地の面積はメートル単位だが、海外の農業最適地はキロメートル単位だ。だからアメリカでは、日本のトラクターは「庭用」として売られている。オーストラリアの農家は庭に飛行場があり、隣の農家に行く時は飛行機を使う。海外の農地は、面積のケタが違うのだ。
 
 さらに日本の農業には農家の高齢化という深刻な問題もある。要するに、日本国内の農業生産を大幅に増やすことは、もはや物理的に不可能なのである。
 
 では、どうすればよいのか? 今の円高を利用して、カーギルやADM、ルイ・ドレフュス、ブンゲなどの穀物メジャーを買うというのも1つの手だと思う。以前計算したら、カーギル(非上場なので推計)をはじめとする4大穀物メジャー(当時)を全社買って8.8兆円だった。日本は第4次農業基盤整備事業(1993~2006年)に41兆円も注ぎ込んで農道や用排水路を整備するなど膨大な公共工事を行なったが、生産性も競争力も全く向上していない。国内で無駄な投資をするくらいなら穀物メジャーを買ったほうが、食糧安全保障の観点から見ると、はるかに有効だろう。
 
 ただし、それよりもっと良い方法がある。農業に適さない国土で創意工夫を重ねてきた日本の農業が、優れた技術とノウハウを持っているのは間違いない。それを国家戦略としてウクライナ、アルゼンチン、ブラジル、アメリカ、オーストラリア、ベトナム、タイ、ミャンマー、中国、インドといった世界の農業最適地に持ち込み、資本を投下して現地の農民を支援し、生産物を買い上げるのだ。
 
 必要なら、大正時代から昭和にかけて台湾に烏山頭ダムと1万6000キロメートルの灌漑用水路を建設した水利技術者・八田與一のように農業インフラの整備も手伝うということも考えるべきだ。そうすれば現地の農民は生活レベルが向上して雇用も拡大し、日本は食糧品の安定供給を図ることが可能になる。いわゆる「Win-Win」の関係を築くことができるわけだ。

※SAPIO2011年3月30日号

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