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被災地ホテルで「電話の受け方」マナー講習をする奇妙な光景

 震災による甚大な被害や自粛の影響を受けて、企業の倒産が急増している。4月末までに57件に達し、そこには約300年の歴史を持つ栃木県日光市の湯西川温泉にある老舗ホテル「伴久ホテル」も含まれる。

 そうした中、水道や電話などのインフラが止まり、再開の目処が立たない宮城県南三陸町にある「南三陸ホテル観洋」では、なぜか連日、ビジネスマナー講習が行なわれていた。

 志津川湾の高台に立つホテルの窓からは、瓦礫の山と化した町や、自衛隊のヘリが飛び交い、海上で艦艇が遺体捜索を行なう様子がそこかしこに見える。そんな悠長なことをやってる場合じゃないはずだが――。

 窓のカーテンを閉めて薄暗くなった会議室に約250人の従業員が集められ、朝8時から昼休みを挟んで夕方5時まで、スライドを観ながら講師による講義を受けている。

「お客様には『お電話をおかけします』とはいいません。『電話をおかけします』が正しいです」

 講師の言葉に頷きながら真剣な眼差しを向けてメモを取る従業員たち。現場を視察した地元選出の小野寺五典衆院議員(自民党)がその異常さを語る。

「一歩ホテルの外に出れば、未曾有の大災害を受けた町の惨状が遠く俯瞰で見渡せる。いわば戦場ですよ。一方、窓一枚隔てた会議室では敬語の使い方や電話の受け方を教えている。どこか奇妙です」

 実はこの講習は、会社が国から「雇用調整助成金」を受け取るためにやっているもの。

 企業側の事情により休業する場合、企業は従業員に賃金の6割以上の手当を支払う義務が課されている。手当を払いたくない企業が安易に従業員を解雇することのないよう、助成金が支給される仕組みになっている。
 
 休業の場合は休業手当相当額の3分の2(中小企業は5分の4)を支給されるが、その際に教育訓練をした場合は賃金相当額の3分の2に加え1人1日2000円が加算される。つまり、休業中に教育訓練をした方が企業側にとってはメリットが大きいのだ。
 
「本当ならば、女将さんも従業員も行方不明の身内や知り合いの捜索をしたり瓦礫の撤去をしたいんです。講師の人も『なんで私がこんな事態で講習をやっているのかと思っている』と話していましたから。実際、4月21日に講習が始まってから3日間で数十人の従業員が次々と退社したそうです」(前出・小野寺議員)

 現状では業務内容と関係のない教育訓練では助成金を受け取ることはできない。小野寺議員は政府に講習内容に社会貢献を入れるよう改正を働きかけているが、その声はいまだ届かないという。

※週刊ポスト2011年5月20日号

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