国内

尖閣諸島所有者「政府は島を守る具体策を明確にしていない」

一昨年の尖閣諸島における中国漁船衝突事件以降も中国の監視船や漁船は領海侵犯・違法操業を繰り返している。日中の争点ともなっているこの尖閣諸島に所有者がいることをご存じだろうか。尖閣諸島を実際に取材し、その荒波と漁業のし難さを実感した報道写真家の山本皓一氏が、所有者に話を聞いた。以下、山本氏の実感と、所有者へのインタビューだ。

* * *
尖閣諸島を実際に訪れてみて、そこで操業する漁船の安全確保のためにはいくつかの対策が必要だと感じた。たとえば東シナ海低気圧の影響で荒れやすい海域で、急な天候悪化の際に避難できる港を整備すること。さらに無線や携帯電話のアンテナを建設し、漁船間や海保との連絡を確保することなどだ。では、尖閣諸島にそれらの施設を造るにはどうしたらよいのか?

東京に戻った私は、島の所有者に会いに行くことにした。尖閣諸島はもともと福岡出身の実業家・古賀辰四郎が開拓したものだ。その古賀家から1970年代に島を譲渡された埼玉の栗原家が、現在の所有者となっている。同一族の一人で、建築設計事務所を営む栗原弘行氏が取材に応じた。

――先日沖縄の漁師と尖閣沖に調査漁労に行って来ました。そこで感じたのは、日本の漁船が漁をするにはあまりにも危険が大きいということと、中国漁船に対する地元の危機感です。現状を打破するには、魚釣島などに避難港や無線基地を建設するのが有効だと思いますが、そうした構想についてどうお考えですか?

栗原:大いにあり得ることだと思いますよ。実際、昭和54(1979)年に当時の大平正芳内閣が政府の合同調査を行なっています。その際は、設計士である私自身が、尖閣諸島に建設する避難港のキープランを担当したほどです。結局、この計画は大平(正芳)総理が急死されたために頓挫してしまいましたが……。

――実際に栗原さんご自身が計画に関与していらしたとは知りませんでした。現在も、建設には賛成なんですか?

栗原:いや、賛成か否かという以前の問題として、政府の姿勢が定まらないことが問題でしょう。大平総理は確固とした信念と意思を持って事に当たられていたと思いますが、今の政府は、「領土問題は存在しない」と言うだけで、具体的にどうやって島を守っていくのかを明確にしていません。少なくとも、海上警備のための法整備がいまだに整っていないじゃないですか。

――2010年の中国漁船衝突事件も、その隙を突かれて起きたわけですからね。

栗原:法整備が第一で、その上、政府の覚悟や姿勢があやふやなままでは、建設を許可してくれと言われても、お答えのしようがありません。

――政府の覚悟があれば港や無線設備も建設は可能だと。そうして民間の側でも漁業による経済活動を日常的に継続できるようになれば、実効支配の強化に繋がりますよね。

栗原:その通りです。我々は、竹島を武力で無理矢理に実効支配している韓国人とは違う。日本の国土として国益に適った実効支配ができればいいと思います。例えば豊かな水産資源を活用して、国民の食生活を豊かにすることも国益でしょう? 

そもそも明治期に尖閣諸島を開拓した古賀辰四郎氏が魚釣島でカツオ節工場を経営したという事実が、実効支配とはどうあるべきかを教えてくれています。古賀家から島を譲り受けた我々としても、その精神を継承していきたいと思っています。

※SAPIO2012年2月1・8日号

関連キーワード

トピックス

ビアンカ・センソリ(カニエのインスタグラムより)
《過激ファッション》カニエ・ウェストの17歳年下妻、丸出しドレスで『グラミー賞』授賞式に予告なく登場「公然わいせつ」「レッドカーペットから追放すべき」と炎上
NEWSポストセブン
女性皇族の健全な未来は開かれれるのか(JMPA)
愛子さま、佳子さま“結婚後も皇族としての身分保持”案の高いハードル 配偶者や子供も“皇族並みの行動制限”、事実上“女性皇族に未婚を強制”という事態は不可避
女性セブン
車から降りる氷川きよし(2025年2月)
《デビュー25周年》氷川きよし、“名前が使えない”騒動を乗り越えて「第2章のスタート」 SMAPゆかりの店で決起集会を開催
女性セブン
第7回公判では田村瑠奈被告の意外なスキルが明かされた(右・HPより)
《モンスターに老人や美女も…》田村瑠奈被告、コンテストに出品していた複数の作品「色使いが独特」「おどろおどろしい」【ススキノ首切断事件裁判】
NEWSポストセブン
大きな“難題”に直面している巨人の阿部慎之助・監督(時事通信フォト)
【70億円補強の巨人・激しいポジション争い】「レフト岡本」で外野のレギュラー候補は9人、丸が控えに回る可能性 捕手も飽和状態、小林誠司は出番激減か
週刊ポスト
『なぎチャイルドホーム』の外観
《驚異の出生率2.95》岡山の小さな町で次々と子どもが産まれる秘密 経済支援だけではない「究極の少子化対策」とは
NEWSポストセブン
出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
【独自】《水原一平、約26億円の賠償金支払いが確定へ》「大谷翔平への支払いが終わるまで、我々はあらゆる手段をとる」連邦検事局の広報官が断言
NEWSポストセブン
10月1日、ススキノ事件の第4回公判が行われた
《お嬢さんの作品をご覧ください》戦慄のビデオ撮影で交わされたメッセージ、田村浩子被告が恐れた娘・瑠奈被告の“LINEチェック”「送った内容が間違いないかと…」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
中居の恋人のMさん(2025年1月)
《ダンサー恋人が同棲状態で支える日々》中居正広、引退後の暮らし 明かしていた地元への思い、湘南エリアのマンションを購入か 
女性セブン
大木滉斗容疑者(共同通信)
《バラバラ遺棄後に50万円引き出し》「大阪のトップ高校代表で研究成果を発表」“秀才だった”大木滉斗(28)容疑者が陥った“借金地獄”疑惑「債権回収会社が何度も…」
NEWSポストセブン
2月5日、小島瑠璃子(31)が自身のインスタグラムを更新し、夫の死を伝えた(時事通信フォト)
小島瑠璃子(31)夫の訃報前に“母子2人きり帰省”の目撃談「ここ最近は赤ちゃんを連れて一人で…」「以前は夫婦揃って頻繁に帰省していた」
NEWSポストセブン
ファンから心配の声が相次ぐジャスティン・ビーバー(Xより)
《ジャスティン・ビーバー(30)衝撃の激変》「まるで40代」「彼からのSOSでは」“地獄の性的パーティー”で逮捕の大物プロデューサーが引き金か
NEWSポストセブン