韓国ドラマには朝鮮王朝を描いたものが多いが、朝鮮王朝は王族を頂点に、「両班」(文官と武官)という地主貴族階級が支配者として君臨した。両班を補佐するのは下級官吏の「中人」だ。
彼らに支配されたのは「良民(常民)」と呼ばれる農民や職人、商人で、ヒエラルキーの最下層には「賤民」がいた。賤民には奴隷の奴婢、旅芸人や獄卒、前科者、妓生などが属す。四つの階層は固定され、出自が職業ばかりか人生を決定した。徹底した身分制度の根底には国教、国是となった儒教の教理がある。
韓流ブームの一翼を担う歴史ドラマでは、好んでこの時代の宮廷、とりわけ女性が描かれる。宮中に仕える女人は「宮女(内人)」、その下に雑役を担当する下女の「房子」がいる。宮女も高級女官の「尚宮」以下、厳しい身分制度が確立していた。
彼女たちは、13歳くらいで見習い内人として入宮する。王の居室に侍って身辺の一切を仕切る「至密」をはじめ、裁縫仕事を受け持つ「針房」、食事を司る「生果房」などの職場に配属された。王城に風呂がないことから、王族の洗顔や入浴、排便の世話係「洗水間」もあった。余談だが、宮女は“全員が王の女”と解釈されており、彼女らの周りで働く男性は生殖能力を失った宦官に限られた。
見習い内人は約10年の修業期間を終えると、王へお披露目する「笄礼」が行なわれ、ようやく成人扱いされる。ただ、尚宮の地位にたどりつくには、さらに15年の宮仕えが必要だ。
『歴史と人物でわかる華麗なる朝鮮王朝』(角川ソフィア文庫)著者・佐野良一氏は語る。
「宮女が王に同衾を許されれば、これは出世の大チャンス。宮女は『承恩内人』と呼ばれます。懐妊、出産となれば側室(嬪)となり、子宝に恵まれなくても『特別尚宮』として仕事を免除されました」
朝鮮王朝歴代27人の王の妃は合計40人、王が召した側室は117人にのぼる。側室から産まれた子どもが260人。最も多くの側室を抱えたのは、10代燕山君(在位1494~1506)の15人だった。
ちなみに、徳川11代将軍家斉はたった一人で40人の側室を侍らせ、55人もの子を産ませた。朝鮮王朝で宮女の数がピークだったのは、英祖(1724~1776)時代で684人。対する大奥は約2000人もの女性が伺候していた。
佐野氏は朝鮮王朝ならではの、性にまつわる秘密も教えてくれた。
「朝鮮の王は、王妃とセックスしたくても決定権がありません。ベテランの尚宮が吉日を選び、ゴーサインをだすのを待たねばなりません」
※週刊ポスト2012年2月10日号