竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「花壇の花の盗難に困っています。対処の方法を教えてください」と以下のような質問が寄せられた。
【質問】
夜中に自宅の花壇の花を盗んでいく人がいます。椿や紫陽花などは花を盗っていくだけでなく、土を掘って木を持っていくのですから、それなりに掘る道具や車を用意した計画的な作業です。もし犯人を捕まえた場合のことですが、警察に対応する上で大事なことは何でしょうか。
【回答】
花盗人のように桜を愛でて小枝を折り取るくらいまでは、風流かもしれませんが、夜中に花壇から根こそぎ持っていくというのは悪質です。花壇の草木は、植栽している人が所有し、支配しているものであり、財産的評価が難しくても、価値がゼロということはありません。
他人が支配している財物を、その意思に反して、自分の支配下に移すと、窃盗罪が成立します。刑法第235条は、「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と定めており、重罪です。
犯行の最中やその直後に犯人を捕まえることを、現行犯逮捕といいます。逮捕は本来、裁判所が発令する逮捕令状を持った警察官など、特別の権限がある者でないとできません。しかし現行犯の逮捕に限っては、犯罪の現場での犯人の確保ですから、誰でもできるとされています。そして刑事訴訟法では、私人が現行犯逮捕をしたときは、直ちに現行犯人を警察官か検察官に引き渡さなければならないと定めています。
現行犯逮捕で最も大事なことは、警察に連絡をして現場に来てもらったり、最寄りの交番に連れていくことです。警察に連絡せず長時間犯人を閉じ込めて叱責を続けていると、却って監禁の罪に問われかねませんので注意してください。このほか、焦らずに後から言い逃れできない確実な段階で捕まえることも大事です。花壇に入りこんで草花に触ったくらいでは、綺麗だから香りをかいだといわれると、窃盗の証明が難しくなります。
なお、必要以上に実力行使して怪我をさせると、傷害を受けたと逆に訴えられることもあります。抵抗を受けたときは警察に連絡し、犯行現場の写真を撮ったり、車のナンバーをメモするなどして、証拠を残しながら、警察官の到着を待ったほうが利口だと思います。
※週刊ポスト2012年5月18日号