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作家・佐野眞一氏 木嶋被告を「史上最強の女犯罪者」と評す

「これは東電OL事件を超える事件だ」――。東電OL事件の冤罪を当初から指摘していたノンフィクション作家・佐野眞一氏は、“婚活詐欺女”による首都圏連続殺人事件のことをそう語る。裁判員裁判としては異例の長さとなった100日裁判を傍聴し、『別海から来た女』(講談社)を上梓した佐野氏の目に、木嶋佳苗被告(37)はどう映ったのか。ノンフィクションライター・柳川悠二氏が、佐野氏に聞いた。

 * * *
――佐野さんは、日頃から「犯罪者にも位階がある」と口にしていますが、木嶋被告という犯罪者の“位”は高いですか。

「高いよ! 突出して高い。東電OL殺人事件が純文学的要素のある事件とするならば、被害者との関係が希薄で、無機的に殺人を繰り返した首都圏連続不審死事件は愚劣な女が引き起こした三文小説的事件という人もいるかもしれない。でも私は違うと思う。

『山より大きな猪は出ない』という言葉があるけれど、木嶋が“キ○ガイ”猪だとしたら、この猪を産みだした山というのは現代社会なんだよ。3.11の瓦礫が片づかず、原発問題も解決していないのに再稼働してしまうような愚かな社会の反映が木嶋でもあるわけだ。だから、木嶋に理解を示す誰かのように、この事件をフェミニズムで語ろうとすると、ものすごくチープな事件になってしまう気がする」

――被害者と加害者という違いはありますが、『東電OL殺人事件』(新潮社)と『別海から来た女』。読み比べれば比べるほどに、それぞれの主人公の渡辺泰子と木嶋被告は対極な女ですよね。慶応卒にして東電OLという「エリート人生」を歩んだ渡辺と、働かずに逮捕された「ニート」の木嶋被告。世間の耳目を引く凶悪犯罪は、ある意味で時代を投影する鏡でもあります。

「東電OL事件が起こったのが15年前ですよね。この間のアナログ社会からデジタル社会への変遷が、ふたりの“身体性”に現れていると思う。

 渡辺は東電のエリート社員として昼間は働き、夜になれば円山町で売春行為に走った。雨の日も風の日も、足を挫いた時も松葉杖をつきながら円山町に立ち続けて肉体を男に預けるわけです。渡辺は身体性の塊だったといえるでしょう。

 一方、木嶋は身体性がゼロの女です。働くことをせずに、男を騙し、金銭を得ようとしていたわけですから。木嶋という女は殺意の沸点が異常に低い。殺人を犯す人間には殺意が絶対条件としてあるわけだけど、木嶋は本当に殺意があったのかと思うぐらいに、まるで子供がオモチャに飽きて放り投げるように簡単に男を殺害している。

 悪魔に魂を売り、身体性のかけらも感じられない彼女は、この無機質なデジタル社会が生み出した毒婦だと思います」

――『別海から来た女』では、木嶋を早々に「サイコパス(反社会性人格障害)」と結論づけています。

「東電OL殺人事件の渡辺はファザコンだったと思うんです。私は東電に勤務していた彼女の父・達雄氏の元同僚などから話を聞くことができて、いかに達雄氏が娘を溺愛していたか証言が得られました。

 その父を渡辺は慕っていたんです。ところが、名家出身の妻はどこか達雄氏をバカにしていた節がある。父を亡くした渡辺は、いつしか母に対する復讐心が芽生え、それが年上男性との売春行為に走らせた。これが私の解釈なんです。

 フェミニズム論者、もうはっきり言っちゃうけど、『毒婦。』(朝日新聞出版)を書いた北原みのり氏なんてのは、木嶋にもファザコンの気があったというけど、そう決めつけるには材料が足りない。虐待などの過去のトラウマによって犯罪に走った可能性も彼女は示唆しているけど私はそうは思えない。100日裁判を傍聴し、詐欺被害者の声をいくら聞いても、最後まで私には木嶋を犯罪に走らせた動機がわからなかった」

――だからこそ「史上最強の女犯罪者」と。

「そう、動機が見えない犯罪者ほど、恐ろしいものはない。状況証拠しかないとはいえ、死刑廃止論者でもない限り、100人が100人とも『死刑』と判断するような事件だけど、裁判を傍聴してもなぜ木嶋が殺害せざるを得なかったのかが分からない。取材しても分からない。だから、最初から人間が壊れていたんじゃないかと思うようになった」

――首都圏連続不審死事件は裁判員裁判によって、木嶋被告に死刑判決が下されました。判決後の会見で、27歳の裁判員が「達成感があった」と話したことを、佐野さんは「欺瞞に見えた」と書いています。

「その若い裁判員の言葉だけじゃなく、判決文にしても、そして裁判中の木嶋の発言にしても、この裁判で使われた言語のすべてが平べったくて、どこかにあった文章をコピー&ペーストしたかのようだった。事件の全容もそうだけど、100日裁判自体がフラットでリアル感が欠落していたと思います」

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