スポーツ

MLBアカデミーに「17歳で158キロ投げるベネズエラ人」がいた

 韓国ソウルで行われていた各国の18歳以下の選抜選手が出場する「IBAF18U世界野球選手権」(主催・国際野球連盟)が9日閉幕した。春夏の甲子園で活躍した選手たちで臨んだ日本代表の結果は6位だった。WBCのジュニア版ともいうべきこの大会から見えたものはなにか。ノンフィクションライターの神田憲行氏が語る。

 * * *
「18U世界野球選手権」は韓国代表監督から「日本のバットは違反」などとイチャモンを付けられるお決まりの展開があったが、私が注目したのは野球文化の違いだった。

 第2ラウンドで対戦したコロンビア代表だった。コロンビアのスポーツというとライオンみたいな髪型したサッカー選手ぐらいしか思い浮かばなかったが、中南米で長く野球コーチをしていた友人によると、

「18歳以下ならベネズエラ、ドミニカと互角の実力。すでにマイナーでプレイしている選手もいる」

 その実力通り、第1ラウンドでは韓国に勝ち、第2ラウンドでも日本を3-0で破った。大ざっぱな野球のイメージがあるが、変化球はカットしてファウルにする技術があり、先発藤浪は試合開始いきなり先頭打者だけで11球も投げさせられた。日本の高校生が空振りさせられていた高めのストレートも上からしっかり捉えて外野にはじき返すパワーもある。日本の完敗だった。コロンビアの選手たちのモチベーションを上げているのは、バックネット裏に陣取る米メジャーのスカウトたち。目にとまれば、マイナー契約やはもちろんメジャーが運営する「アカデミー」に入ることも出来るからだ。

 アカデミーとはマイナー契約に至らないが才能を見こまれた15歳から18歳以下の子どもたちが、球団の費用で野球技術を磨く機関である。私は米西海岸のメジャーの「アカデミー」のビデオを見たことがある。10人ぐらい一列に並んだ捕手は投球を受けて立ち上がり二塁送球のフリをする練習を延々と繰り返していた。内野手もダブルプレーの連携でオーバートスやグラブトスまで様々なシュチエーションを変えて練習をしていた。「基礎をウンザリするほど練習させる」と、そのビデオを撮影してきた人が教えてくれた。

 そのアカデミーでは17歳で158キロを投げるベネズエラ人がいたという。この中の誰かひとりでも甲子園につれてくればスーパースターになるだろう。ただ生活環境は快適とは言えない。二段ベッドがいくつも入った大部屋で集団生活をして、食事もプレートを手にして順番によそってもらう。夜はなぜか拳銃を持った警備員が巡回していた。まるで刑務所みたいで、野球版「虎の穴」だった。

 メジャー各球団はそういうアカデミーを作り(ベネズエラがいちばん多いと聞いた)、18歳以下の野球大会でめぼしい人材を見つけては囲い込んでいく。カネももちろん動く。もちろんマイナー契約出来ても道のりは厳しい。

「彼らがメジャーに昇格できる目安は25歳で3Aにいること。そうで無ければクビか、『練習補助員』のような形でチームに残ることになります」(メジャー国際担当スカウト)

 でも中南米の貧しい地域の野球選手は、そういうところで野球をするのが憧れなのだ。日本戦でコロンビアの選手は三振すると悔しそうにバットを投げ、グラウンドに唾を吐いた。「高校野球目線」で見ていて思わずドキッとしたが、「教育の一環としての高校野球」を標榜している日本の高校野球とは違い、彼らがプレイしているのは、それで飯を食べていく「道具としての野球」なのである。

 アメリカ戦では、ラフプレーで日本の森捕手が2度も体当たりを食らい、目を腫らせた。小倉監督は「アマチュアとしてどうか」と憤ったが、この大会は「18歳以下」であり、各チームにはすでにマイナーでプレイしている、つまり野球でお金を稼いでいる選手が何人もいる。アマの大会ではない。18歳までの野球を「教育」と考えるか「生きていくための道具」と捉えるか、図らずも認識の差が出たと思う。

 WBCで日本がカネの配分で揉めた。が、日本をのぞく世界はカネのために野球をしてきた人間であると認識した方が良い。

関連キーワード

関連記事

トピックス

氷川きよしが独立
《真相スクープ》氷川きよしが事務所退所&活動再開 “独立金”3億円を払ってでも再出発したかった強い思い
女性セブン
5月8日、報道を受けて、取材に応じる日本維新の会の中条きよし参議院議員(時事通信フォト)
「高利貸し」疑惑に反論の中条きよし議員 「金利60%で1000万円」契約書が物語る“義理人情”とは思えない貸し付けの実態
NEWSポストセブン
殺害された宝島さん夫婦の長女内縁関係にある関根容疑者(時事通信フォト)
【むかつくっすよ】那須2遺体の首謀者・関根誠端容疑者 近隣ともトラブル「殴っておけば…」 長女内縁の夫が被害夫婦に近づいた理由
NEWSポストセブン
初となる「頂上鼎談」がついに実現!(右から江夏豊、田淵幸一、掛布雅之)
【江夏豊×田淵幸一×掛布雅之の初鼎談】ライバルたちが見た長嶋茂雄秘話「俺のミットを“カンニング”するんだよ」「バッターボックスから出てるんだよ」
週刊ポスト
曙と真剣交際していたが婚約破棄になった相原勇
《曙さん訃報後ブログ更新が途絶えて》元婚約者・相原勇、沈黙の背景に「わたしの人生を生きる」7年前の“電撃和解”
NEWSポストセブン
なかやまきんに君が参加した“謎の妖怪セミナー”とは…
なかやまきんに君が通う“謎の妖怪セミナー”の仰天内容〈悪いことは妖怪のせい〉〈サントリー製品はすべて妖怪〉出演したサントリーのウェブCMは大丈夫か
週刊ポスト
グラビアから女優までこなすマルチタレントとして一世を風靡した安田美沙子(本人インスタグラム)
《過去に独立トラブルの安田美沙子》前事務所ホームページから「訴訟が係属中」メッセージが3年ぶりに削除されていた【双方を直撃】
NEWSポストセブン
エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン