2020年の夏季オリンピック開催都市が決定するのは、来年2013年9月7日――少し先のことに思えるが、実はこの決定プロセスが12月~来年2月の間に、国際オリンピック委員会(以下、IOC)による支持率調査の実施という、ひとつのヤマ場を迎える。
支持率調査の方法は完全非公開で、グルメガイドの覆面調査のように“いつ、誰が、どういう形で”アンケートを実施するのか、わからないようにしているという。東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の関係者によると、「街頭アンケートなのか、電話調査か、インターネットを使うのか、それすらわからない」という極秘ぶりだ。
そうした形で今年5月行なわれたIOCの支持率調査では、「賛成」47%、「どちらでもない」30%、「反対」23%と、他の候補地に比べて低い支持率になった。しかしその後、招致委員会によって行なわれた調査では、ロンドンオリンピック前の7月とオリンピック終了後の8月を比較すると、「賛成」58%→66%、「どちらでもない」26%→20%、「反対」16%→14%と支持率が伸びている。最近ではハロウィーンなど、海外のイベントも定着しやすい風潮をひも解かずとも、日本人は元来「祭り」が好きな国民性であり、14%という少数の反対派も実施に至れば、“やって良かった”と思う人が少なくないだろう。
支持率の調査方法に限らず、この2020年東京オリンピックに関して、意外と知られていないことは他にもある。インターネットに書きこまれている否定的なコメントの中には、「東京以外で開催するなら賛成」「東北でやるなら、応援したいけど……」といった意見が見られる。しかし今回の東京オリンピックは、メインの開催都市として「東京」と冠されているものの、一部東北も舞台となるのだ。
オリンピック開催のプロローグとなる聖火リレーは、津波による被害の大きかった三陸海岸を走る。見渡す限りがれきの続いていた、あの悲惨な光景から、東北の人々が日常を取り戻した姿を“平和の祭典”であるオリンピックの聖火を通じて、世界中の人に見てもらえる機会になることが、ほとんど知られていない。
またサッカーの予選会場として宮城スタジアムが予定されており、海外からの観光客増加など、東北への直接的な経済効果が見込まれている。第一生命経済研究所・主席エコノミストの永濱利廣氏はこう語る。
「聖火リレーやサッカー予選といった一部であっても、東北に多くの人が訪れる機会があれば、宿泊施設や外食産業などをはじめとして、少なからぬ経済効果はあるでしょうね」
こうした背景もあってか、東京オリンピック招致委員会の評議会委員には、岩手・宮城・福島の被災三県の知事も名を連ねており、東京オリンピックが「東京や周辺エリアだけのものではない」ことが感じられる。
経済という点では、現段階で3兆円と試算される経済効果についても、一般消費者の視点でメリットが語られることが少ない。例えばガソリン価格が物価に影響するように、これほど大きな経済効果があるイベントであれば、幅広く影響を及ぼす可能性は高いはずだ。
「東京オリンピックは既存の設備を多く活用する点で、経済性にすぐれた開催となりますが、コンパクトにできるとはいえ改修工事や一部の新設事業は発生します。こうしたことによる雇用拡大は、当然消費活動の促進に繋がります。
また開催期間中は世界中から日本に人が集まるわけで、先ほど東北の経済効果についてお話したのと同様に、宿泊や外食といった直接的にお金が落ちる部分を皮切りに、消費活動が活性化します。消費活動が高まると、小売業が好調となり、そこに商品を提供する製造業も好転する――そうした流れの中で、一般の人にも経済効果が期待できるというのは自然なことです。
ちなみにロンドンオリンピックの影響で、イギリスは今年7-9月期GDPが年率4.1%も拡大しました。イギリスの過去3四半期のGDP成長率がマイナスだったことを考えると、これは大きな数字です。もちろん日本に当てはめても、同様のことがいえるのではないでしょうか」(永濱氏)