緑と赤の飾り付けが街で目立ちはじめ、クリスマスへむけてにぎやかになる季節になると、この数年、北欧から来日する政府公認などの肩書きがついた”サンタクロース”たちの姿を様々な場所で見かけるようになった。彼らはお馴染みの赤い衣装で大きな体をつつみ、日本のいたるところで愛想を振りまいている。
微笑ましい光景のようにうつるが、日本人でただひとりのグリーンランド国際サンタクロース協会公認サンタクロースでミュージシャンのパラダイス山元さんは、”公認”サンタクロースが毎年、何人も来日する状況に困惑している。
「この5年ぐらいで急速に増えたフィンランドからやってくる”公認”サンタたちは、仕草も話し方もちっともサンタらしくない。サンタが被災地へ行くための移動費を寄付してもらったり、プレゼント代まで募るなんてとんでもない。そのうえ、『毎年、国際サンタクロース会議には、出席しているよ』などとあからさまなウソをつき、日本にいる公認サンタは友だちかと問われると『そんなサンタは知らない』と答えている。
クリスマスは人への思いやりや感謝を大切にし家族で楽しむ季節、と位置づけてサンタは活動しています。高価なプレゼントをお願いして、もらうだけの日ではありません。こんなこと、日本でしか起きていません。外国の公認サンタ仲間からも『抗議するべきだ』と言われました。これまでは表立って言わずにきたのですが……」
山元氏が所属するグリーンランド国際サンタクロース協会は1957年から活動する老舗団体で、北極に住む長老サンタの補佐役として公認サンタを任命している。現在、世界に120人ほどしかおらず、山元氏は資格審査、体力測定、面接などを経て1998年に任命された。病気や様々な事情で、家族と一緒にクリスマスを過ごせない子どもたちのために施設や病院を訪問することを中心に、イベントなどへ出席している。
国際サンタクロース協会に公認されると、毎年、夏にデンマークのコペンハーゲンで開催される国際サンタクロース会議に出席することが義務づけられる。山元氏も、真夏に東京の自宅から会議場までサンタクロースの扮装のまま、自費で移動して参加している。日本でもパレードの様子がニュースとして紹介されるので、記憶している人も多いだろう。山元氏によると、フィンランドからの出席者は今はいないそうだ。
それでは、フィンランドから政府公認のサンタクロースが日本へ続々と来日するのはなぜのか。
フィンランド大使館に尋ねてみると「フィンランド政府には、公認サンタクロースというものはありません」という意外な答えが返ってきた。そのため、”フィンランド政府公認”というフレーズを報道でみかけると、訂正を求めているのだという。大使館によれば、サンタパークという遊園地があるロヴァニエミ市、もしくは市があるラッピ県(旧ラップランド州)が公認している可能性はあるという。基本的には民間企業が派遣しているので、大使館としては把握していないそうだ。
そもそもサンタクロースとは、守護聖人の聖ニコラウスがアメリカへ伝えられ、19世紀半ばに変容した姿だ。アメリカの政治風刺画家ナストが1886年にサンタの暮らしぶりを描きイメージとして現在も定着しているが、そのとき住まいは北極とされた。北極はどこの国にも所属していない。
人気イラストレーターだったロックウェルによって赤い衣装を着たサンタは、コカコーラの広告などで大衆へ広まり、20世紀になってヨーロッパへ伝わった。地方に伝わる地域の伝承などと融合したため、欧州各国にはそれぞれにサンタの住まいがある。日本へもほぼ同じころにアメリカから伝えられたと言われている。その間、サンタの居住地は一貫してあいまいなままだった。
そして現在、ノルウェーのドローバックではサンタが村おこしの主役となり、スウェーデンでは1984年12月にトムテランド(サンタワールド)が、1998年11月にフィンランドにもサンタパークが開園した。サンタはいまや、北欧の地域経済に貢献するキャラクターのひとつになっている。日本でも北海道広尾町がノルウェーのオスロ市と提携して、町おこしのひとつとして1984年からサンタランドの活動を続けている。
山元氏は、サンタクロースとして活動するならば、徹底してなりきってほしいと訴えている。
「自分たち以外のサンタクロースを否定したいわけではありません。私が所属する協会の基準は厳しくて、離婚したり、サンタとしての活動中にビールを飲んだために公認をはく奪された人もいます。『ホッホッホー』とサンタらしく発音できなければいけませんし、痩せてもいけません。ちっともサンタらしくない人には軽々しく”公認”を名乗ってほしくないですね」