適量が大事だとわかっていても、「酒は三献に限る」をどうしても守れず、飲み過ぎて後悔してしまうもの。酒を酌み交わして生まれる縁もあれば、壊れる絆もある。各界著名人が迷惑をかけた“あの人”を思い出しながら語った「泥酔録」には、酒を愛し、人を愛する「人生の滋味」が溢れている。
ここでは、プロレスラーの天龍源一郎さんが、レスラー仲間の藤原喜明さん(藤原組長)に謝りたいと語る出来事だ。
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プロレス界には“天龍カクテル”ってのがあるんです。アイスペールにヘネシーからビール、コショウ、タバスコと店にあるモノを全て放り込んじゃう。
酔えば愉しいし、愉しいともっと酔いたくなるじゃないですか。そういう時、このカクテルが最高なんですよ。
だから、泥酔のエピソードには事欠かないですね。レスラー仲間の藤原喜明(藤原組長)との事件も、そのうちのひとつ。
赤坂のショーをやるクラブで飲んでたんだけど、「お前も酒が強いらしいな」といって飲み比べをしながら大騒ぎしてたら、最前列に陣取っていたその筋の人たちが店長に「静かにさせろ」って。
店を出た後も「オレの腕を決められるか」と藤原を挑発してしまった。オレ、酔うと言わずもがなのことを口にする悪癖がある(苦笑)。
そりゃ売り言葉に買い言葉ですから、藤原もムキになる。取っ組み合いを始め、ガラガラと螺旋階段を転げ落ちていき、勢い余って店の真ん前までいっちゃった。さすがに店長が飛んできて、「天龍さん、黙ってこのまま帰ってください」って。
見栄といわれればそれまでなんだけど、オレらは人気商売だし、世間に向けて豪快さをアピールすることで、夢を売るって部分がある。酒なんかはその典型ですよね。
だから、見知らぬ人も含めて店中の客の勘定を持ったりもしました。全日本プロレス時代は、それで手持ちが尽きたら、ジャイアント馬場さんに電話して無心したもんです。馬場さんは、何にもいわずに「これ、もってけ」ってお金を渡してくれましたよ。
最近の若いプロレスラーはそんな飲み方をしなくなっちゃったけどね。
※週刊ポスト2013年2月1日号