国際情報

実際の兵士に装着したカメラで「殺し合い」伝える映画が話題

話題の戦争ドキュメンタリー映画「アルマジロ」

 アフガニスタン駐留のデンマーク兵を追った戦争ドキュメンタリー映画「アルマジロ」が話題を呼んでいる。兵士のヘルメットに小型カメラを装着し、そこに映し出されるのは「本物の殺し合い」だ。フリーライター神田憲行氏が見所を紹介する。

 * * *
 飛び交う弾丸の音。轟く爆発音、ボロぞうきんのような骸をさらすタリバン兵……戦争映画でお馴染みのシーンを目の当たりにするたびに、「いやいやこれはフィクションじゃない、本物だから」と気持ちをリセットせずにおられなかった。

 現在、「渋谷アップリンク」などで上映されている「アルマジロ」(デンマーク、ヤヌス・メッツ監督)は必見の映画である。なぜならこの映画は現在の戦争はどのように行われているのか伝えた、貴重なドキュメンタリーだからだ。監督、カメラマンが実際に戦地で兵士とともに寝起きしてカメラを回しただけでなく、兵士のヘルメットにも小型カメラを装着した。パトロール中に突然銃撃されて兵士が地面を転げ回ると、カメラは突然空を、森を、砂漠を映し出す。観客は「兵士目線」での「殺し合い」を体験する。

 「アルマジロ」とはアフガニスタンの前線に置かれた基地の通称で、デンマーク軍はISAF(国際治安支援部隊)としてイギリス軍とともに対タリバン対策のためここに駐留している。映画は2008年から09年にかけて、若い兵士たちの赴任前からアフガン、帰国まで密着した。

 戦闘シーンだけでなく、「これが現代の戦争なのか」と感じさせるようなシーンもある。アフガニスタンの基地から衛星電話で母国の母親と話をしたり、基地内をバイクで走りまわる若い兵士たち。小隊長の訓話を寝そべって聞き、奇襲作戦の従事者も「志願制」で、主人公のひとりが「僕でも良ければ」とおずおずと申し出る。そんな「緩さ」が、逆に、ドキュメンタリー性を際だたせていると思う。

 映画はもちろん、私が感心したのはパンフレットだ。アフガンにデンマーク兵が駐留していることすら知らない私のような鑑賞者のためにデンマークの徴兵制(良心的兵役義務もあるそうだ)など、映画のバックボーンとなる知識がコンパクトにまとめられて、ジャーナリスト、映画監督ら四本のコラムも読み応えがあった(自衛隊体育学校広報室勤務の映画評論家って、知ってました?)。

 監督インタビューも素晴らしい。この作品を見て疑問に思うところを余すことなく代わりに聞いてくれている。たとえば密着した兵士たちが戦争犯罪に問われかねないシーンも入れたことについて、ヤヌス監督は、

「映画監督としてもっとも辛い体験だった。(中略)映画に対して私が背負っていた責任は、出演してくれた兵士たちを守りたいという欲望よりも大きかった」

 と真情を吐露している。

 この映画が去年の今ごろなら、話題にしなかったもしれない。映画を見てどうしても考えざるを得ないのは、自衛隊のことだった。憲法を改正して国防軍とし、PKOだけでなく軍事的な国際貢献まで視野に入れる政権が誕生したいま、この映画が「他人事」には思えない。監督インタビューでも最後にこんな質問をしている。

「日本では2012年12月16日に総選挙が行われ、『憲法改正により自衛隊を国防軍として位置づける』と公約に掲げている政党が勝ちました。日本の観客になにかメッセージを」

 パンフを制作した映画宣伝担当者の露無栄さんによると、

「インタビューの質問はみんなで考え、来日予定のないヤヌス監督にメールで行いました。最後の質問は、観た人にこれからを考えるきっかけになってほしいという想いから加えたものです」

 これに対してヤヌス監督は明確に回答している。しかしそれをここに書くのは野暮だろう。映画を観て、パンフを買って自分で考えて欲しい。

 「アルマジロ」は渋谷アップリンク、新宿K’s cinema、銀座シネパトスほか全国順次公開中。詳しくは公式HPで確認を。

関連記事

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン