和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「被告人はAさんの自宅マンション前の衆人環視の中で、助けを求めるAさんを何度も刺した。強い殺意を持って計画的に行なわれた犯行で、その態様は極めて悪質です」——検察官は無表情にうつむく被告人を前に、冷静な口調でこのように告げた。
東京・新宿区のタワーマンションの敷地内で2024年5月、当時25歳だったガールズバーやキャバクラ店の経営者の女性・Aさんが刃物で刺され、殺害された事件。殺人などの罪に問われ起訴されていた川崎市在住・配送業の和久井学被告(52)の裁判員裁判の第5回公判が7月10日に開かれた。この日は検察側と弁護側の論告があり、今回の裁判の争点について改めて整理がされた上で、検察側は「懲役17年」を求刑した。【前後編の前編】
被告のAさんに対する恐ろしいほどの“復讐心”
論告で弁護側に先立った検察側が強調したのは、和久井被告の犯行の悪質さだった。
検察官「被告人は事件当日、果物ナイフ2本を持ってAさんを待ち伏せし、凶器を見せて声をかけ、逃げて転倒したAさんを捕まえて髪を捕まえて引きずり、周囲に人が集まるなか、肋骨が複数本折れるほどの強い力で、助けを求めるAさんに『死んでくれ』と言いながら、何度もAさんを刺しました。Aさんの身体には、20箇所以上の刺し傷、切り傷が残っていました。
被告人は数日前から車に果物ナイフ2本を常備して、Aさんのライブ配信を確認していた。計画的に行なわれた犯行で、その態様は極めて悪質です」
弁護側は、和久井被告がAさんに店で1600万円を渡していたことや、結婚の約束を破られたことなどを主張していたが、検察は「犯行を正当化する理由にはならず、酌量の余地が乏しい」と断じた。さらに検察が言及したのは、被告人のAさんに対する恐ろしいほどの“復讐心”だった。
検察官「被告人は犯行前からAさんに対して激しい怒りを感じていました。その証左となるのは、被告人が犯行当日、Aさんの自宅に移動する際に使った車に、催涙スプレーとバイアグラを載せていたことです。これらの道具からは、Aさんに対する脅迫行為や性的加害の意図がみえます。
弁護側は犯行当日について、『お金を取り返すのが目的だった』と主張していますが、仮にそうだとしたら、他にも方法はたくさんあった。『返金を求める』というのは、被告人がAさんに接触するための口実にすぎません」