地主の息子がガールズバーで巻き込まれた事件(イメージ、GFdays/イメージマート)
新宿に拠点を構え、これまでに3000件以上の風俗トラブルを解決してきた「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏のもとには、ドラマさながらの案件が寄せられる。歌舞伎町のお膝元にある、紀伊國屋書店新宿本店の「新書部門(6月4週)」でランキング第1位を獲得した若林氏の著書『歌舞伎町弁護士』より、一部抜粋、再構成して紹介する。(記事内はすべて仮名)【全3回の第1回】
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「バヤシさん、この人、どうにか助けてやれないかな」
日々、歌舞伎町を徘徊している週刊誌記者のフクちゃんから呼び出され、行きつけの居酒屋に向かうと、小柄な中年男性が泣いていた。フクちゃんのネタ元でもある会員制カラオケバーのオーナーから「あんまり可哀想だから」と相談されたのだという。
聞けば、この男性は歌舞伎町の悪い奴らに食い物にされ、全財産をむしり取られてしまったのだという。有り金すべて……数十万円の被害ぐらいで、フクちゃんがわざわざ電話してくるとは思えないので、ひと晩で1000万ぐらいだろうか。
「1億5000万だって」
思わず、頭がカッと熱くなった。
「で、これ」
手練れのフクちゃんが、男性の名前が記された「愛の手帳」を差し出した。知的障害者の保護と自立更生のために、東京都が交付している療育手帳だ。程度は「4」。日常生活に差し支えない程度に身辺の事柄を理解できるが、新しい事態や複雑な事態に対応することは難しい程度ということである。