ビジネス

もしもトヨタがF1復帰したら若者のクルマ離れは止まるのか

 自動車レースの最高峰であるF1(フォーミュラワン)への復帰が半ば確定的となっているホンダ。そんな中、ホンダと同じく2000年代にF1に参戦していたトヨタの復帰説がまたぞろ噂として出てきた。

 情報源は、メルセデスのチーム代表コメント。「ホンダの他にもF1を検討している企業がある」と漏らしたことから、業界通たちの“尾ひれ”がついて「TOYOTA」の名が取り沙汰されているというわけだ。もちろん、ホンダもトヨタも公式発表をしていないため何ら確証はないのだが、モータースポーツファンにとって日本チーム復活を待望する声も少なくないのは事実だ。

 一度は撤退を決めた日本勢のF1復帰。その動機は何なのか、また復帰した暁には国内外にどんなメリットをもたらすのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏に聞いた。

* * *
――トヨタのF1復帰説をどう見るか。

井元:トヨタは2009年にF1から完全撤退しましたが、参戦した8年間で優勝は1回もできませんでしたし、リーマン・ショックによる金融危機の影響で、F1チームの拠点であるTMG(トヨタモータースポーツ有限会社)は清算するような形で終わらせてしまいました。そうした苦い経験があるだけに、「本当にまたやるのかな?」と。

――F1に再び参戦することになれば、莫大な投資も必要だ。

井元:もちろん円安が進んだおかげで海外での業績を盛り返している自動車業界だけに、モータースポーツへの投資もしやすい環境になっていることは確か。でも、ホンダも既存のチームにエンジンを供給する形での参戦が囁かれていますし、関わり方によって投資額は違ってくるでしょう。しかも、トヨタはヨーロッパの耐久レース選手権などで成果を上げていますし、決してF1だけがモータースポーツだとは思っていないはずです。

――では、F1に参戦することの最大のメリットは?

井元:アメリカに比べて販売台数が振るわないヨーロッパでブランドイメージを高められることが大きいと思います。先進国市場の中でもヨーロッパは世界一、「走り」にうるさいユーザーが多く、そこで成功することは、新興国においてもブランド力を輝かせる原動力になるのです。

――F1はその格好の材料になると。

井元:そうですね。また、F1技術は市販の自動車研究に応用できるものはなくなったと言う人もいますが、そんなことは全くありません。例えば、「トヨタ86」や「カローラ」、「クラウン」ほかいろんな車種のテールランプ付近などに小さな突起物がついているのを知っていますか? あれは高速走行時の車両の安定性を保つのに有効で、F1カーから学んだパーツ。トヨタはF1をやったおかげで、世界でも注目される空力レベルになりました。

――ただ、F1エンジンなどはそのまま量産車に適用されるわけではない。

井元:これもよく誤解している人がいますが、F1のエンジンはエネルギー効率からいえば、市販車よりケタ違いにいい最高峰の技術です。例えばレース車を2時間近くもあのスピードで走らせる割には、たった200リットルの燃料で済んだりします。

 今年6月にホンダから発売される予定のハイブリッドカー『アコードPHEV』のエンジン開発者は、F1はじめ多くのレース車エンジン開発に従事してきた第一人者。新型アコードはその技術を応用して、飛躍的に燃費を向上させたと前評判は上々です。

――さて、日本メーカーのF1復帰が次々と果たされれば、若者のクルマ離れも防げるのか。

井元:F1に日本チームが復活したからといって、モータースポーツファンが一気に増えて若者向けのスポーツカーが売れて……という好循環はすぐに期待できません。本当にファンを引き付けたいならば、実際にレーシングカーに同乗して速さが体感できるイベントを開くなど、もっと触れ合いのプロモーション活動をメーカー自らが行わない限り、国内の地盤沈下は止まらないと思います。

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン