ビジネス

ぐんまのやぼう作者「アプリ開発、そんなにうまい話はない」

愛用の「ゲーム&ウオッチ」型名刺入れとぐんまグッズ

 アップルがApp Storeサービスを始めて以来、スマホアプリは個人でも一獲千金のチャンスをつかめる市場だと期待されてきた。「ぐんまのやぼう」を制作したRucKyGAMESのようにヒット作、話題作を連発するケースもある。RucKyGAMESの中の人こと本間和明さんに、アプリを開発しヒットメーカーになれば噂通りに収入が激増し「ヒャッハー!」な状態になるのか、無料アプリで仕事は成立するのかについて尋ねた。

* * *
――会社員としてのゲーム開発は、どのくらいの期間されていたんですか?

RucKyGAMES(以下R):5年と少し働いていました。ニンテンドーDSのゲームソフト開発会社です。いま結果的に有名になった「おさわり探偵なめこ」の本編ゲーム「おさわり探偵 小沢里奈」のDS版に関わっていました。

 辞めた頃は携帯ゲーム機の過渡期で、所属部署の業績が良くなかった。すると、iPhoneアプリをつくろうという話が会社で出た。そうなると、会社とどちらへ注力すればいいのか分からなくなるから、自分ひとりでやってみようと2010年4月に独立しました。

――個人でアプリ制作を始めたのは、どんなきっかけだったのでしょうか?

R:2008年から個人的にフラッシュのゲームを作っていました。その後、iPhoneアプリを個人でも出せるストアが出来るという話が聞こえてきたので、思いついた翌日にMacを買いました。完全にウインドウズの人だったので、最初は電源の入れ方すら分からなかったんですよ。

――アプリで一攫千金も可能と世間で言われましたが、実際にそうだったのですか?

R:やっぱり、そんなにうまい話はないなと思いました(笑)。iPhoneアプリは審査を通過しないとならないので、その手応えを確かめようと一番最初は無料で出したんです。2009年4月のことでした。そのダウンロード数が多かったので、続けて有料アプリを出したら全然売れなかった。無料と有料だと、ダウンロード数が100倍ぐらい違います。

 それでも、去年の春先にある個人開発者が『アプリでこれだけ稼いだぜ、ヒャッハー!』と羽振りのよさを公にしたことがありました。それからしばらく多くの個人開発者が参入してきて盛り上がったのに、自分はそのブームに乗れなかった(笑)。「ぐんまのやぼう」は、そのタイミングよりあとです。

――独立して個人開発者として仕事をするうえで、心がけたことはありますか。

R:強引に実績を作ろうと思い、数が多ければ、たくさん作る人として有名になれると考え、月に4、5本出していました。数を打てば1個ぐらい当たるかなとも。大リーグのイチロー選手だって打率は3割。僕はもっと打率が低いはずだからたくさん打たないと。

 幸い、辞めたすぐあとに出したアプリの人気が出て、収入も安泰と言えるくらいにはなりました。実は、脱力系ゲームで人気が出ても、収益にはならない。「ぐんまのやぼう」も総計で100万がやっと。退職前に出した「i大富豪」と「GeoBlocks」という真面目なパズルゲームの2つの収益で2011年ぐらいまで生活していました。二つとも無料ゲームです。

――無料アプリで、どうやって収益につなげるのでしょうか?

R:ゲームの下部分にでる広告のバナーをクリックされると収益になります。そんなにクリックされないのではとよく聞かれますが、1000回表示されると1回くらいの頻度です。ですから、単純にゲームの表示回数が増えれば収入になるチャンスが増えます。アプリの広告にはゲーム系が多いので、ゲームアプリだと相性が良く、親和性があってバナー広告が押されるようです。

 ソーシャルゲームの会社が広告をつぎ込んでくれるので、僕らが潤っています(笑)。ひとつのゲームばかり流行ると、ゲームする時間の奪い合いになるので困る部分もありますが、今はモバゲーさん、グリーさん、ガンホーさんありがとうございます、という仕組みです。2年ぐらいで会社員の頃の収入は越えました。

――個人だと、開発に費やした時間を収益で回収するのが難しくなりやすいのでは?

R:無料アプリの傾向として、長く遊ばれる限りは広告収入が入るので、長期的にみると意外と収益がプラスになりやすいんです。瞬間的に話題になっても、長く遊ばれないとダメ。だから、脱力系、一発ネタ系は収益につながりづらい。独立して知り合いは増えましたが、開発ペースは落ました(笑)。難しいなあ。会社を辞めない方が良かったのかも(笑)。

――話題作が多いですが、当たる仕事の法則のようなものは見えてくるのでしょうか。

R:ないです(苦笑)。10本つくれば1本当たるかもよとしか言えない。作り続けるのが一番、強いです。ツール系アプリは定番が決まると変わらないので、ゲームがやはり狙い目です。ランキングもよく変わりますし、遊ぶ側からしても、飽きると他のゲームに移る。循環するから作り続ければヒットする可能性が高い。

――スマホ向けアプリビジネスは、今後も変わらず隆盛を続けそうでしょうか?

R:ひとつの型の端末は市場として2年ぐらいなので、3年後が見えないぐらいだと思っています。いま一番怖いのが、アップルの気まぐれ(苦笑)。毎年、アップル社の発表会は祈りながら待つんです。iPhone5発表の時は悲鳴があがりました。夜中のネット中継時にツイッターで「(画面が)縦に伸びた!」「助けて!」という叫びが飛び交った。新機種はうれしいですが、開発者としては2年ぐらい新機種を出さなくていいじゃないというのが本音です(笑)。

――いまや世界のスマホシェアではAndroidがiOSを抜いていますが、グーグルのPlayストアには、そういった対策が必要な事態は生じているのでしょうか?

R:基本的に審査がないので、よっぽど問題がない限り消されることもありません。犯罪に使われやすいですが、アプリを出す側からみると、ある意味リスクは少ない。iPhone版だけでなくAndroid対応のアプリを作り始めたのには、作り手としてリスク分散的な意味もあります。

――3年後には、ご自身はどんな仕事をしていると予想しますか?

R:怖いです。だから今は、仕事系でいただいたものは断らないようにしています。そうすれば、急に仕事が無くなってもRucKyGAMESっていう名前、聞いたことがあるでしょう、という話題をきっかけに、なんとか新しい仕事につなげられるんじゃないかなと期待して。ゲームの仕事には、ずっと関わっていきたいと思っているので。

■本間和明(ほんま かずあき) 株式会社RucKyGAMES代表取締役。1984年生まれ。群馬県吉岡町出身。ぐんま観光特使。専門学校を卒業後、ニンテンドーDS向けゲーム開発に携わったのち、2010年に独立。2012年5月にリリースしたスマートフォン向けゲームアプリ「ぐんまのやぼう」が評判を呼び、2012年の「グーグル」検索ワードの都道府県別急上昇ランキングで群馬県を3位に押し上げた。リリースしたスマートフォン向けアプリは合計100本を超えたところ。最新作は「バハムート&ポーカー」(iPhone、Android対応)。著書に『大手メーカーが作らない「B級」iPhoneゲームが売れる50の理由』(秀和システム)

関連キーワード

トピックス

おぎやはぎ・矢作兼と石橋貴明(インスタグラムより)
《7キロくらい痩せた》石橋貴明の“病状”を明かした「おぎやはぎ」矢作兼の意図、後輩芸人が気を揉む恒例「誕生日会」開催
NEWSポストセブン
イベント出演辞退を連発している米倉涼子。
「一体何があったんだ…」米倉涼子、相次ぐイベント出演“ドタキャン”に業界関係者が困惑
NEWSポストセブン
エドワード王子夫妻を出迎えられた天皇皇后両陛下(2025年9月19日、写真/AFLO)
《エドワード王子夫妻をお出迎え》皇后雅子さまが「白」で天皇陛下とリンクコーデ 異素材を組み合わせて“メリハリ”を演出
NEWSポストセブン
“CS不要論”を一蹴した藤川球児監督だが…
【クライマックスシリーズは必要か?】阪神・藤川球児監督は「絶対にやったほうがいい」と自信満々でもレジェンドOBが危惧する不安要素「短期決戦はわからへんよ」
週刊ポスト
「LUNA SEA」のドラマー・真矢、妻の元モー娘。・石黒彩(Instagramより)
《大腸がんと脳腫瘍公表》「痩せた…」「顔認証でスマホを開くのも大変みたい」LUNA SEA真矢の実兄が明かした“病状”と元モー娘。妻・石黒彩からの“気丈な言葉”
NEWSポストセブン
世界陸上を観戦する佳子さまと悠仁さま(2025年9月、撮影/JMPA)
《おふたりでの公務は6年ぶり》佳子さまと悠仁さまが世界陸上をご観戦、走り高跳びや400m競走に大興奮 手拍子でエールを送られる場面も 
女性セブン
起死回生の一手となるか(市川猿之助。写真/共同通信社)
「骨董品コレクションも売りに出し…」収入が断たれ苦境が続く市川猿之助、起死回生の一手となりうる「新作歌舞伎」構想 自宅で脚本執筆中か
週刊ポスト
インタビュー時の町さんとアップデート前の町さん(右は本人提供)
《“整形告白”でXが炎上》「お金ないなら垢抜け無理!」ミス日本大学法学部2024グランプリ獲得の女子大生が明かした投稿の意図
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ハワイ別荘・泥沼訴訟を深堀り》大谷翔平が真美子さんと娘をめぐって“許せなかった一線”…原告の日本人女性は「(大谷サイドが)不法に妨害した」と主張
NEWSポストセブン
須藤被告(左)と野崎さん(右)
《紀州のドン・ファンの遺言書》元妻が「約6億5000万円ゲット」の可能性…「ゴム手袋をつけて初夜」法廷で主張されていた野崎さんとの“異様な関係性”
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)の“過激バスツアー”に批判殺到 大学フェミニスト協会は「企画に参加し、支持する全員に反対」
NEWSポストセブン
どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン