ビジネス

大ヒットのベジップス 100種類から素揚げに最適タマネギ採用

 大ヒット中の野菜素揚げチップス「ベジップス」(カルビー)。「玉ねぎ かぼちゃ じゃがいも」(26グラム、138キロカロリー)と「さつまいもとかぼちゃ」(35グラム、192キロカロリー)の2商品の小売店頭価格は140~150円前後。スナックとしては決して安くないベジップスが、なぜ、人気を集めるのか。五感・身体と社会の関わりをテーマに、五感生活研究所代表として取材や多くの講演を精力的に行う作家の山下柚実氏が、その秘密に迫った。

 *  * *
 ぽりっ、ぱりぱり。袋の中から指先でつまみ出したチップス。

 香ばしさと、ほどよい塩味。クセになるおいしさ。もう1枚。あれっ? いつものポテトチップスとは違う味がする。じんわりとした濃い甘みと旨みが口の中に広がっていく……。

「見た目は茶色でポテトチップスとよく似ていますが、玉ねぎの素揚げが入っているんです」

 玉ねぎやかぼちゃを素揚げしたローカロリーの新スナック「ベジップス」を開発した同社マーケティング本部・柚木英明氏(38)は続ける。

「タマネギと言えば、辛いイメージをお持ちかと思います。でも、油との相性がとても良くて、揚げると甘さや旨みが増し、とってもおいしいんですよ」

 たしかに、玉ねぎチップスの味は強烈な印象を残す。ただし玉ねぎの9割は水分なので、カラッと揚げるためには想像以上に難しい技術が必要となるらしい。

「業界では各社が挑戦してきたけれど、なかなか実現できませんでした。野菜の水分を抜いて揚げる方法は、砂糖漬けしかなかったのです」

 しかしそれでは砂糖の甘みが強すぎて、野菜本来の旨みが引き出せない。

 「玉ねぎを極めよ」そんな指令が柚木氏に下ったのは2005年のこと。

「えーっ、私が玉ねぎですかと驚きました。でも、難しいだけにやりがいがある。素揚げにすると、“感動レベル”が一段上のおいしさ。なんとかして実現してみたいと思いました」

 世界中を探し回った柚木氏。約100種もある玉ねぎの中から、素揚げに最も適した品種を厳選した。種蒔きから栽培方法まで学びとった。玉ねぎ発祥の地であるシルクロード付近の乾燥地帯へ足を運び、現地での栽培量産体制を一人で作り上げていった。

「野菜の素揚げは、とにかく素材が決め手になります。まずい野菜を素揚げしたら、まずいチップスになってしまいますから。本当においしい玉ねぎを見つけると同時に、安定的に生産、供給できるシステムが必要なんです」

 玉ねぎを食べすぎて、サラダなどに入っていれば品種を当てられるまでになった。

 カラリと揚げる技術の開発にも四苦八苦した。「べたっと水っぽくなってしまって廃棄処分、なんてこともしばしばでした」

 3~4年は試行錯誤の連続でなかなかうまくいかなかった。社内では「幻の商品か」と囁かれた。追いつめられた柚木氏。ふと顕微鏡を覗き、タマネギの細胞壁を観察してみた。 「そこからやっと、水分を抜く処理の方法が見えてきたんです」

 特殊な製法とフライ加工の新技術を駆使し、いよいよ「玉ねぎの素揚げ」が完成した。味付けは、じゃがいもに塩を使っているのみ。玉ねぎやかぼちゃなどは“素材そのまま”だ。

「ベジップスの製法は競合他社にも簡単には真似できないはずです」

 良い商品を開発したからといって、すぐ売れるわけではない。コンビニでテスト販売を開始したが、反響は今ひとつ。ところが、販売チャンネルをスーパーに変えたとたん、火がついた。50代女性が熱烈な支持を寄せたのだ。ベジップスの鉱脈が見えてきた。

 2012年10月に全国販売を開始すると、テレビでタレントが「素揚げの玉ねぎが旨い」とコメントし注文が殺到。一時販売休止に追い込まれたほど。それ以後、野菜の素揚げのストレートなおいしさとカロリー抑えめの健康志向がウケて、浸透していった。

「当初は年間2000万円しかなかった売り上げが、2012年は32億円にまで伸びました。5年後に100億円突破を目指しています」

 社をあげてポテト系に匹敵する新ジャンルに育てていくという。

※SAPIO2013年6月号

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン