早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
新宿に拠点を構え、これまでに3000件以上の風俗トラブルを担当してきた「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏のもとには、日々様々な相談が寄せられる。歌舞伎町のお膝元にある、紀伊國屋書店新宿本店の「新書部門(6月4週)」でランキング第1位を獲得した若林氏の著書『歌舞伎町弁護士』より、一部抜粋、再構成して紹介する。【前後編の前編】
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警察が誰かを逮捕した。だから、「逮捕された時点で悪人」だとするなら、裁判という仕組みはいらない。同様に、検察が起訴したからといって、それを根拠に「起訴された者が悪人である」とも断定できないだろう。
逮捕され、起訴された者が「本当に、その罪を犯しているのかどうか」を判断するのは、あくまで裁判だ。そして、その裁判ですらも、地方裁判所によるジャッジだけでは真実を見誤る可能性が否定できないため、高等裁判所、最高裁判所と複数回にわたって、裁判を受ける権利が保障されている。
暴力団の構成員だからといって、口を開けば毎回「恐喝する」わけではないし、過去に物を盗んだ前科がある人物が、その前科を理由に今日も「盗んだ」かどうかは決めつけられない。そういうことだ。
左手で吊り革をつかみ、右手には工具の入った鞄を持っていた
早朝のJR埼京線で乗客らによって取り押さえられ、新宿駅で警官に引き渡された若い男性がいた。ラッシュ時、ぎちぎちに人の詰まった車内で「痴漢」の疑いをかけられたのだ。1人の女性が「やめてください!」と大きな声を上げ、その声に反応した周囲の男性らが、彼女の後ろに立っていた若者を羽交い絞めにした。