ビジネス

大前研一氏 ゲームの世界でも日本人のお株は奪われたと痛感

「個人消費が持ち直した」との声の一方で、アベノミクスにやや懐疑的なデータも出始めている。「今の景気は“小春日和”にすぎない」と指摘する大前研一氏が問題点について語る。

 * * *
 本格的な景気回復を実現できる可能性が低いと考える理由は、まず日本の人口がこれから年々減少していくということだ。ここ数年はポスト団塊世代が退職する時期となり、労働力人口が毎年40万人以上も減り続ける。これは国の借金を返済する労働力と消費が旺盛な世代が減ることを意味する。そんな国の景気が簡単に良くなったら、それは奇跡かマジックと呼んでもよいだろう。

 さらに、ひとたび海外に出ていった企業は円安になっても戻ってこない。これは過去のイギリスやアメリカなどの歴史を見れば明らかで、日本も例外ではない。国内外の生産比率は若干調整するだろうが、グローバル企業は為替動向に一喜一憂しないシステムをすでに作り上げている。

 そうした難問を克服して経済成長を実現するには、よほど思い切った施策が必要だ。

 安倍首相の経済政策「アベノミクス」では、財政出動と金融緩和に続き成長戦略を「3本目の矢」と位置づけているが、政府の産業競争力会議や規制改革会議の議論を見る限り、新しい発想やアイデアは見えてこない。たとえば、産業競争力会議は「農業」の輸出拡大・強化を掲げているが、産業規模から見てもピント外れと言わざるを得ない。規制改革会議は「過去に改革論議があった59項目」を論点にするというお粗末さだ。

 かつては日本の成長産業と言われたゲームやアニメなどの分野も、ことごとく海外勢に追いつかれ、追い越されてきている。とくにゲーム産業は、コンソールゲーム機が主流の時代は任天堂とソニーが世界市場の大部分をコントロールしていたが、今では主戦場がゲーム機からスマートフォンに移ったため、その変化に対応できなかった両社も苦境に陥っている。ゲームソフトも、今や海外のレベルが日本を凌駕し始めている。

 3月に発売されたアメリカ・EA(エレクトロニック・アーツ)社の新しい『シムシティ』を見ると、市長選の候補者の試験に使うべきだと思うほど緻密にできている。水道、ゴミ問題、失業問題、リサイクル、産業振興、電力問題に至るまで、従来とは段違いにゲームのリアリティが増している。
 
 電力はギリギリではダメだとか、教育レベルが低いとリサイクルに協力しないとか、組み込まれたロジックも面白い。高度な数学的知識に加えて政治や経済の知識もなければ作れないゲームプログラムで、もはや日本のゲームクリエイターのお株は奪われたと痛感した。

※SAPIO2013年6月号

関連記事

トピックス

遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
《スクープ》“連立のキーマン”維新国対委員長の遠藤敬・首相補佐官が「秘書給与ピンハネ」で税金800万円還流疑惑、元秘書が証言
NEWSポストセブン
2018年、女優・木南晴夏と結婚した玉木宏
《ムキムキの腕で支える子育て》第2子誕生の玉木宏、妻・木南晴夏との休日で見せていた「全力パパ」の顔 ママチャリは自らチョイス
NEWSポストセブン
大分県選出衆院議員・岩屋毅前外相(68)
《土葬墓地建設問題》「外国人の排斥運動ではない」前外相・岩屋毅氏が明かす”政府への要望書”が出された背景、地元では「共生していかねば」vs.「土葬はとにかく嫌」で論争
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
《雅子さま、62年の旅日記》「生まれて初めての夏」「海外留学」「スキー場で愛子さまと」「海外公務」「慰霊の旅」…“旅”をキーワードに雅子さまがご覧になった景色をたどる 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
《悠仁さまの周辺に緊張感》筑波大学の研究施設で「砲弾らしきもの」を発見 不審物が見つかった場所は所属サークルの活動エリアの目と鼻の先、問われる大学の警備体制 
女性セブン
清水運転員(21)
「女性特有のギクシャクがない」「肌が綺麗になった」“男社会”に飛び込んだ21歳女性ドライバーが語る大型トラックが「最高の職場」な理由
NEWSポストセブン
活動再開を発表した小島瑠璃子(時事通信フォト)
《輝く金髪姿で再始動》こじるりが亡き夫のサウナ会社を破産処理へ…“新ビジネス”に向ける意気込み「子供の人生だけは輝かしいものになってほしい」
NEWSポストセブン
高校時代の安福久美子容疑者(右・共同通信)
《「子育ての苦労を分からせたかった」と供述》「夫婦2人でいるところを見たことがない」隣人男性が証言した安福容疑者の“孤育て”「不思議な家族だった」
中国でも人気があるキムタク親子
《木村拓哉とKokiの中国版SNSがピタリと停止》緊迫の日中関係のなか2人が“無風”でいられる理由…背景に「2025年ならではの事情」
NEWSポストセブン
ケンダルはこのまま車に乗っているようだ(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《“ぴったり具合”で校則違反が決まる》オーストラリアの高校が“行き過ぎたアスレジャー”禁止で波紋「嫌なら転校すべき」「こんな服を学校に着ていくなんて」支持する声も 
NEWSポストセブン
24才のお誕生日を迎えられた愛子さま(2025年11月7日、写真/宮内庁提供)
《12月1日に24才のお誕生日》愛子さま、新たな家族「美海(みみ)」のお写真公開 今年8月に保護猫を迎えられて、これで飼い猫は「セブン」との2匹に 
女性セブン
石橋貴明の近影がXに投稿されていた(写真/AFLO)
《黒髪からグレイヘアに激変》がん闘病中のほっそり石橋貴明の近影公開、後輩プロ野球選手らと食事会で「近影解禁」の背景
NEWSポストセブン