国内

参院選自民勝利で国会はオール与党の地方議会化との懸念も

 安倍政権が「決勝戦」と位置づける7月の参院選は、すでに自民党の「不戦勝」ムードが漂ってきた。円安・株高を追い風に高支持率を維持する与党、一方で内紛や舌禍で自滅を繰り返す野党を見て、有権者は「投票しても意味がない」という思いを抱き、参院選投票率は史上最低になるのではないかとさえ見られている。

 では、そんな選挙を経た国政はどうなっていくのか。歴史社会学者の小熊英二・慶應義塾大学教授は、「日本の議会制の危機」を指摘する。

 * * *
 今の国政は、自民党が「結果的に与党になる状況」が続いている。

 しかし、必ずしも国民全体が自民党を支持しているわけではない。昨年12月の総選挙で自民党の比例区の得票率は約3割弱で、2009年よりも得票数は減っている。この3割という数が、自民党の基礎票といえる。

 また、民主党から自民党に投票先を変えた人は少ない。2009年に民主党に投票した人は、民主、維新、未来、そして棄権の4つに分散した。7割の有権者にまとまった一つの受け皿がなく、相対的に自民党が浮上しただけである。

 図式的にいえば「昔の日本を取り戻したい」という民意が3割あり、その有権者が自民党に投票をした。そして残りの7割は、昔の日本=自民党政治を変える必要があると考えている有権者だと考えられる。

 ただ、その7割の選択は昔の「革新」のようなまとまりはない。例えば、昨年の総選挙の争点が、憲法・原発・TPP(環太平洋経済連携協定)・消費税の4つだったとすれば(実際はもっと多かったが)、有権者の賛否の組み合わせは16通り(2の4乗)になる。7割の票が16に分散すれば、「昔のやり方を踏襲してほしい」という3割の票が確実に勝つ。

 自民党の従来の支持基盤も高齢化や産業構造の変化で弱っているが、他の勢力がそれ以上に小さくばらばらなのだ。その結果、現在は3割の自民党票が国会で圧倒的な議席を取る。選挙による議会制の機能不全といえるだろう。

 現状を見ると、7月の参院選でも自民党以外に「勝つ」政党がない。民主党が「勝つ」可能性は低く、地方に足場のない日本維新の会やみんなの党も同様だ。

 この状況が続いた場合に行き着く政治状況の一つは、国会の地方議会化だ。多くの地方議会は「オール与党」化している。

 その理由の一つは、自治体に権限がないことだ。多少の権限があっても、財源がないからやれることは少ない。またそのなかでその地方をどうするかのビジョンも欠けがちだ。結果、地方の首長に必要な“能力”は、中央政府とのパイプの太さとなり、求められる“政策”は、国からどれだけお金を引っ張ってこられるかにかかる。地方の首長の多くが中央省庁出身の官僚(47都道府県中29人)という現実が、それを暗示している。

 すると地方議会、地方選挙はどうなるか。首長が中央から引っ張ってくるお金に議員が群がり、議会はオール与党化する。有権者も中央とのパイプの太い候補を首長や議員に選ぶ。それ以外に争点がない選挙となれば、投票率も下がり、20~30%台になることも少なくない。首長の無投票当選も相次いでいる。

※週刊ポスト2013年6月7日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

5月8日、報道を受けて、取材に応じる日本維新の会の中条きよし参議院議員(時事通信フォト)
「高利貸し」疑惑に反論の中条きよし議員 「金利60%で1000万円」契約書が物語る“義理人情”とは思えない貸し付けの実態
NEWSポストセブン
殺害された宝島さん夫婦の長女内縁関係にある関根容疑者(時事通信フォト)
【むかつくっすよ】那須2遺体の首謀者・関根誠端容疑者 近隣ともトラブル「殴っておけば…」 長女内縁の夫が被害夫婦に近づいた理由
NEWSポストセブン
曙と真剣交際していたが婚約破棄になった相原勇
《曙さん訃報後ブログ更新が途絶えて》元婚約者・相原勇、沈黙の背景に「わたしの人生を生きる」7年前の“電撃和解”
NEWSポストセブン
なかやまきんに君が参加した“謎の妖怪セミナー”とは…
なかやまきんに君が通う“謎の妖怪セミナー”の仰天内容〈悪いことは妖怪のせい〉〈サントリー製品はすべて妖怪〉出演したサントリーのウェブCMは大丈夫か
週刊ポスト
令和6年度 各種団体の主な要望と回答【要約版】
【自民党・内部報告書入手】業界に補助金バラ撒き、税制優遇のオンパレード 「国民から召し上げたカネを業界に配っている」と荻原博子氏
週刊ポスト
グラビアから女優までこなすマルチタレントとして一世を風靡した安田美沙子(本人インスタグラム)
《過去に独立トラブルの安田美沙子》前事務所ホームページから「訴訟が係属中」メッセージが3年ぶりに削除されていた【双方を直撃】
NEWSポストセブン
エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
阿部詩は過度に着飾らず、“自分らしさ”を表現する服装が上手との見方も(本人のインスタグラムより)
柔道・阿部詩、メディア露出が増えてファッションへの意識が変化 インスタのフォロワー30万人超えで「モデルでも金」に期待
週刊ポスト
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン