国内

なぜ、株価急落を新聞記者は“期待先行”といちいち批判する?

 5月23日の東証平均株価急落では、新聞各紙に「期待先行」の文字が躍った。なぜ新聞は、こうした表現を使いたがるのだろうか? ジャーナリストの長谷川幸洋氏が解説する。

 * * *
 株価が乱高下している。5月23日には東京証券取引所の平均株価が前日に比べて1100円以上も急落した。翌日の各紙は「期待先行の市場 暗雲」(朝日新聞)とか「期待先行 危うさ露呈」(東京新聞)といった具合に「株高は期待先行だった」と報じている。

 だが、それで何かを伝えたのだろうか。株式相場が期待で動くのは当たり前ではないか。投資家は「株価が上がる」と期待して株を買う。そんな期待がなければ、だれも買わない。株取引はいつだって期待先行である。それなのに株価が急落すると、いつも新聞やテレビは判で押したように「期待先行だった」と批判めいて報じる。これはおかしくないか。

 1つの理由は、記者たちが実は心の底でマネーゲームを苦々しく思っている。おカネは汗水流して働いた人に対する報酬であって、画面を見ながらクリックひとつで大金を手にする人をみると「なんだ、こいつは」と思っている。だから株価が急落すると「ほらみろ」という気になるのだ。

 株取引をする記者がいないわけではないが、私の知る限り、朝から晩まで市況をチェックしているような経済記者は取材現場にいなかった。株取引をしていたら、急落場面では仕事にならないだろう。株をやらない記者たちがマネーゲームに冷ややかになる気持ちは分からなくはない。

 もっと本質的な問題もある。記者たちは株価と実体経済を区別して発想する。株価が上昇しても「だからどうなの。実体経済はちっとも変わっていない」と受け止めている。実体経済で分かりやすいのは企業業績とか賃金、雇用だ。株高にはなったものの、まだ目に見えて賃金などに跳ね返っていないから、株高は「単に投資家という人種の期待を反映しているにすぎない」とみる。低迷している実体経済に比べて、株高は「期待が先行している」と理解するのだ。

 今回の株価急落を正確に表現するなら、期待先行ではなく「過熱した期待の調整」ではないか。あまりに期待が盛り上がったので株価は急騰した。そこで、そんなに期待していなかった人たちが利益確定の売りに出た。買おうとする人より売ろうとする人が増えた結果、株価は下がった。だが、そこそこ下がれば、また期待する人が増えて株価は反転するとみる。一本調子の上げ局面が半年も続けば、そういうスピード調整を迎えるのは自然なプロセスである。

※週刊ポスト2013年6月14日号

関連キーワード

トピックス

「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/小倉雄一郎)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(容疑者の高校時代の卒業アルバム/容疑者の自宅)
「軍歌や歌謡曲を大声で歌っていた…」平原政徳容疑者、鑑定留置の結果は“心神耗弱”状態 近隣住民が見ていた素行「スピーカーを通して叫ぶ」【九州・女子中学生刺殺】
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン