最近スーパーやコンビニ・ドラッグストア、飲食店などで、定番商品の「今だけ○○増量」「○○増量お買得パック」などが目につく。こうした「増量」は昔からあるものの、ここ数年ちょっとした“増量化ブーム”が起きているようなのだ。
2010年、ニチレイは家庭用調理冷凍食品において「えびピラフ」「本格炒め炒飯」など値ごろ感のある増量アイテムが好調で、前年比で増収増益を記録。2012年8月の日経POSデータ「紙おむつの売れ筋ベスト10」では、P&Gの「パンパース やわらかコットンケアパンツ クラブパック 8枚増量」が、Lサイズ1位、Mサイズ6位を獲得した。その他にもキャンペーンを含め、こうした増量を行なっている商品は、飲み物や菓子類・調味料、洗剤・シャンプー・洗顔料、ペット用品など多岐にわたる。
慶應義塾大学名誉教授で日本マーケティング協会理事長の嶋口充輝氏は、こうした増量アイテムの拡大について「まず消費期限が短くなく、日常的に使ったり、口にする商品であること。食べきり・飲みきりのものでは、例えばスナック菓子など“もう少しあると、ちょっとハッピー”な気持ちになるものは、増量されることで購入モチベーションが上がるでしょうね」と分析する。
アベノミクスや好景気への期待感はあるものの、消費行動は引き続き堅実といった状況を背景に、価格は据え置きでも“おトク”が感じられる増量アイテム。単純な値下げとは異なる取り組みは、消費者だけでなくメーカー側にもメリットがあるという。
「すでに確立されたブランドの場合、値引きや安売りはブランド価値を毀損する上に、利潤にもさほど貢献しません。そこで多くの場合、ブランド確立後はその延長上にラインを拡張して売り上げ増を狙いますが、その場合も生産ラインの変更や成分の一部変更は、追加広告、在庫増などでコストアップになります。
しかし定番アイテムの1割程度の増量は、それほどコスト増にならず、すでに愛好してくれている購入対象者に、おトクな印象やサイズバリエーションといった多様性の効果を与えるだけでなく、会社の量産効果にも繋がりますから、収益貢献も期待できると思います」(嶋口氏)
増量アイテムは「堅実な消費者」に“おトク”を提供しつつ、企業の業績にも貢献し得る「堅実な戦術」といえそうだ。そうした増量化で伸びた特徴的な商品としては、これから気温の上昇と共に飲容量が増え、“もう少しあると、ちょっとハッピー”が当てはまる「十六茶」(アサヒ飲料)が挙げられる。1993年に発売された代表的なブレンド茶のひとつ「十六茶」は、2012年2月に従来の500mlペットボトルを600mlに増量し、12年ぶりに2000万ケースの大台に達し、パーソナル容器(500~600mlペットボトル)が前年比124%を記録した。
また増量化は小売商品だけでなく、外食産業でも広がっている。トンカツ専門店・かつやが「カツ丼(竹)」や「ロースカツ定食」の豚ロースを110gから120gへ増量。長崎ちゃんぽんのリンガーハットは、看板メニュー「長崎ちゃんぽん」で価格はそのまま、麺の量を「普通:200g、1.5倍:300g、2倍:400g」から選べる。
「たくさん提供するというのは、ひとつの“おもてなし”の形で、外食ではデカ盛りも流行っています。ただ量が多いことだけが、価値を生む――とは、一概に言えない。相手に喜ばれるもの、“ちょっと多いが嬉しい”といった『ほど良さ』など、購入者の気持ちにフィットするか? が、増量が成功するかどうかのポイントでしょうね」(嶋口氏)