ビジネス

ANA エアアジアと提携解消でLCC事業の先行きはどうなる?

 いま、日本の上空には6か国11社、毎日約130便のLCC(格安航空)が飛んでいる。国内移動は3000円も出せば飛行機に乗れる時代。一昔前なら信じられないほど気軽な乗り物になった。

 だが、“薄利多売”が売りのLCCビジネスに綻びも見え出した。ANAが合弁事業で飛ばしていたアジア有数のLCC、「エアアジア」との提携を解消するという。正式発表はないものの、本国マレーシアのエアアジアは、「経営面で意見の相違に直面してきた」との声明を出した。

 エアアジア・ジャパンは昨年8月の就航以来、成田空港を拠点に国内線5路線、国際線3路線で運航してきた。LCCの生命線ともいわれる搭乗率は、就航直後こそ84%と好調だったが、その後は空席の目立つ便も多くなり、今年4月、5月は50%台にまで落ち込んでいた。

 そこまで人気が落ちた理由は何なのか。真っ先に挙げられているのがネット予約の使いにくさだ。昨年、福岡出張で「成田―福岡 往復1万5000円」のチケットを購入したという50代会社員が振り返る。

「本国のシステムをそのまま使っているのか、英語表現が多くて予約に手間がかかりました。それだけではありません。国内線なのにパスポート番号を入れなければならないとか、チェック項目を外さなければ予約料金や保険料が自動的に加算されてしまうとか……。二度と乗ろうとは思いませんでした」

 当然、国内で実績のあるメガキャリアのANAが運営に携わっていながら、利用者の声が届かないはずはない。ところが、不評も承知のうえで対応が遅れたというのだ。経済誌『月刊BOSS』主幹の関慎夫氏がいう。

「一度、ANA関係者にネット予約の件も含めて聞いたところ、『それでもスピードを買った』というんです。つまり、ANAは自社系LCCのピーチ・アビエーションの運航システムを1から作り上げるのに労力を費やし、それまでの間、他社にLCC市場を奪われてしまわぬよう、エアアジアとのアライアンスでつないできたのです」

 エアアジアの日本部門の赤字は日本円で約21億円。もちろん提携先のANAにとっても、買った時間の代償はあまりにも大きかったはず。

 航空経営研究所所長の赤井奉久氏は、エアアジア低迷の理由として「路線が少ない消極的な経営展開」を挙げる。

「同じ成田を拠点とするジェットスター(JAL系)と比べると、赤字覚悟でどんどん路線を増やすジェットスターに対し、エアアジアは慎重に採算性を見極めてから進出するスローな展開。キャンペーン料金もジェットスターより遥かに少ないから価格メリットが薄い。結局、いつまでたっても認知度は上がらず、稼働率が上がらない経営体質を続けたために、運航品質も確保しにくいという悪循環を招いています」

 今後、エアアジア・ジャパンはANAの完全子会社となる公算が大きい。ブランドはそのまま残すか、ピーチとの一本化にするか、様々な案が検討されていくだろう。

 しかし、ANAのLCC事業自体は、関西国際空港を拠点に70~80%の搭乗率を維持するピーチの好調に支えられて先行きは明るい。5月の累計旅客数は他社を圧倒する200万人に達した。裏を返せば、辛抱強くエアアジアとの二刀流を続けてきた成果ともいえなくはない。

「ピーチは予約システムの操作性、親しみやすいサービス形態、宣伝告知も含めて日本人にマッチしている点が高評価につながっています。また、関空は成田と違って発着時間の“門限”がないので運航品質を保ちやすく、伊丹からの旅客需要も取り込めます」(前出・赤井氏)

 さらに、ピーチは10月から関空―成田線を就航させることを決め、いよいよ巨大な東京マーケットに進出する。あとは、LCCの醍醐味である低価格運賃をさらに打ち出し、どれだけ盤石な収益構造が保てるかにかかっている。

「国内線の平均収入単価は8000円台と既に大手の半額になっていますが、日本は公租公課や空港関連コストがあまりにも高いので、運賃をさらに安くして採算ラインに乗せるのは容易なことではないでしょう」(赤井氏)

 経営体質のスリム化を図って、今のところ一歩リードのANAだが、日本の空を巡るLCC競争は、まだまだ予断を許さない。

関連記事

トピックス

6月は“毎年絶好調”というデータも(時事通信フォト)
《ホームラン量産モードの大谷翔平》6月は“毎年絶好調”で「月間20本塁打」もあるか? 見えてくる「年間60本塁打」昨季を超える異次元記録
週刊ポスト
イケオジたちの魅力を山田美保子さんが語る
竹野内豊、仲村トオル、阿部寛、そしてロバート秋山竜次も…“アラフィフ・アラ還”イケオジ芸能人たちの魅力 高身長という共通点も
女性セブン
“教育虐待”を受けたと主張する戸田容疑者の家庭環境とは── (時事通信社)
「母親から数万円の振り込み断られた」東大前駅切りつけ事件・戸田佳孝容疑者(43)の犯行動機に見える「失われた世代」の困難《50万人以上の高齢者が子に仕送りの推計データも》
NEWSポストセブン
秋篠宮と眞子さん夫妻の距離感は(左・宮内庁提供、右・女性セブン)
「悠仁さまの成年式延期」は出産控えた姉・眞子さんへの配慮だった可能性「9月開催で眞子さんの“初里帰り”&秋篠宮ご夫妻と“初孫”の対面実現も」
NEWSポストセブン
性的パーティーを主催していたと見られるコムズ被告(Getty Images)
《フリーク・オフ衝撃の実態》「全身常にピカピカに」コムズ被告が女性に命じた“5分おきの全身ベビーオイル塗り直し”、性的人身売買裁判の行方は
NEWSポストセブン
大食いYouTuber・おごせ綾さん
《体重28.8kgの大食いタレント》おごせ綾(34)“健康が心配になる”特殊すぎる食生活、テレビ出演で「さすがに痩せすぎ」と話題
NEWSポストセブン
美智子さまが初ひ孫を抱くのはいつの日になるだろうか(左・JMPA。右・女性セブン)
【小室眞子さんが出産】美智子さまと上皇さまに初ひ孫を抱いてほしい…初孫として大きな愛を受けてきた眞子さんの思い
女性セブン
出産を間近に控える眞子さん
眞子さん&小室圭さんがしていた第1子誕生直前の “出産準備”「購入した新居はレンガ造りの一戸建て」「引っ越し前後にDIY用品をショッピング」
NEWSポストセブン
不倫報道の渦中にいる永野芽郁
《永野芽郁が見せた涙とファイティングポーズ》「まさか自分が報道されるなんて…」『キャスター』打ち上げではにかみながら誓った“女優継続スピーチ”
NEWSポストセブン
子育てのために一戸建てを購入した小室圭さん
【眞子さん極秘出産&築40年近い中古の一戸建て】小室圭さん、アメリカで約1億円マイホーム購入 「頭金600万円」強気の返済計画、今後の収入アップを確信しているのか
女性セブン
カジュアルな服装の小室さん夫妻(2025年5月)
《親子スリーショットで話題》小室眞子さん“ゆったりすぎるコート”で貫いた「国民感情を配慮した極秘出産」、識者は「十分配慮のうえ臨まれていたのでは」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「コメ上納」どころではない「議員特権の米びつ」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「コメ上納」どころではない「議員特権の米びつ」ほか
NEWSポストセブン