国際情報

新燃料「シェールガス」コスト含め価格は天然ガスの3分の1

 新たなエネルギー源「シェールガス」に注目が集まっている。非常に安価なエネルギーとして期待されるシェールガスの登場により、世界のエネルギー情勢はどのように変化するのか? かつてオイルの採掘に携わった落合信彦氏が解説する。

 * * *
 世界のエネルギー情勢が大きな転換点を迎えている。背景にあるのは日本でも最近になって報じられるようになってきた「シェール革命」だ。

 アメリカを中心に、地下の頁岩(シェール)層から採掘されるガスの生産量が急増し、それが非常に安価なエネルギー源として市場に出回りはじめた。これまでは世界最大のエネルギー輸入国だったアメリカが、あと数年で世界一の天然ガス産出国に生まれ変わることになるのだ。

 私はかつてオイルのアップストリーム(採掘)のビジネスに携わっていて、シェールガスの存在自体はその頃から知られていた。当時は採算の取れる採掘技術がなく、近年のテクノロジーの進歩によって大量の新エネルギー源が“生まれた”というわけだ。

 シェール層は当然のことながらロシアや中国にも存在するものの、今のところ採算の取れる採掘技術は北米地域にしかない。米大統領のオバマは「これから100年間は天然ガスを自給できる」と演説で宣言した。

  オバマの宣言する数字に信憑性があるかはスペシャリストの間でも意見の分かれるところだが、革命のインパクトが大きいことに変わりはない。太陽光発電などの自然エネルギーと違って、値段が安いところが「革命」的なのである。

 日本が輸入している天然ガス価格は100万BTU(英国熱量単位)あたり16~17ドル程度が相場だが、米国産のシェールガスは3~4ドル程度となる。タンカーや液体化のコストを含めても現在輸入しているものの3分の1程度の値段だろう。

 ただ、日本では「新しく安いエネルギー源が生まれた」というポジティブな文脈でばかり紹介されているのが気がかりなところである。「革命」には良い面と悪い面の両方があることを忘れてはならない。

 では、激動の時代に日本はどう行動すればいいのか。単純に「安い天然ガスをアメリカから融通してもらおう」と考えるのは浅はかだ。既に日本は軍事面でアメリカに大きく依存している。残念ながら米軍抜きでの安全保障など考えられないのが現状である。その上、エネルギー供給までアメリカに依存していいのか。もちろん安いエネルギーを調達するための努力はあっていいが、リスク分散を考えるのであれば、これ以上アメリカに依存するのは望ましくない。

 むしろ、まず日本としてはシェール革命を中東諸国との交渉材料に使うべきだろう。「アメリカに安いガスがある」という状況を効果的に示しながら、現在日本が輸入する高い天然ガスの価格を下げていくことを考えるべきだ。その意味で、シェール革命は日本にとってのグッド・ニュースになり得る。

 また、ロシアとのやり取りも重要になる。4月末に訪露した安倍はプーチンと会談し、北方領土交渉に進展が期待できるといった報道がされた。しかし、ここではロシアの立場になって考えることが必要だ。

 ロシアはヨーロッパへの最大の天然ガス輸出国である。エネルギーを供給することでEUへの影響力を保持してきた。今後、仮にヨーロッパにアメリカのシェールガスが入るようになれば、存在感は一気に小さくなり、現在のような傍若無人な振る舞いを控えなければならなくなる。

 プーチンが日本に甘い顔を見せるのは極東のガス田共同開発が狙いだと考えていい。日本の技術を利用して資源を確保しつつ、日本に天然ガスを供給して日米関係に楔を打とうとしているのだ。

 単に「北方領土が返ってくるかもしれない」などと浮かれていると、ガス田開発のための技術とカネだけ取られて、領土はいつまで経っても返ってこないということになりかねない。しかも、エネルギーを梃子にロシアと接近することをアメリカがどう捉えるかというデリケートな問題もケアしなければならない。

 シェール革命によって起きるパワーバランスの変化は非常に複雑なものとなろう。こう振る舞えば必ずうまくいくという唯一の解はない。最新の政治情勢に気を配り、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、中東諸国、中国などの思惑を見通した上で、国益を確保しなければならない。

※SAPIO2013年7月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

妻とは2015年に結婚した国分太一
《セクハラに該当する行為》TOKIO・国分太一、元テレビ局員の年下妻への“裏切り”「調子に乗るなと言ってくれる」存在
NEWSポストセブン
闇バイトにはさまざまなリスクが…(写真/ゲッティイメージズ)
《警察の仮想身分捜査導入》SNSで闇バイトの求人が減少する一方で増える”怪しげな投稿” 「闇バイト」ではないキーワードが浮上
NEWSポストセブン
無期限の活動休止を発表した国分太一
「給料もらっているんだからさ〜」国分太一、若手スタッフが気遣った“良かれと思って”発言 副社長としては「即レス・フッ軽」で業界関係者から高評価
NEWSポストセブン
ブラジル訪問を終えられた佳子さま(時事通信フォト)
《クッキーにケーキ、ゼリー菓子を…》佳子さま、ブラジル国内線のエコノミー席に居合わせた乗客が明かした機内での様子
NEWSポストセブン
1985年春、ハワイにて。ファースト写真集撮影時
《突然の訃報に「我慢してください」》“芸能界の父”が明かした中山美穂さんの最期、「警察から帰された美穂との対面」と検死の結果
NEWSポストセブン
”アナウンサーらしくないアナウンサー“と評判
「笑顔でピッタリ腕を絡ませて…」元NMB48アイドルアナ・瀧山あかねと「BreakingDown」エース・細川一颯の“腕組み同棲愛”《直撃に「まさしくタイプです(笑)」》
NEWSポストセブン
『ザ!鉄腕!DASH!!』降板が決まったTOKIOの国分太一(右/番組の公式サイトより)
《TOKIO・国分太一が無期限活動休止》「演者とスタッフは“独特の距離感”だった」関係者が明かす『鉄腕DASH』現場の“特殊な事情”
NEWSポストセブン
グラビアのオファーも多いと言われる中川安奈アナ(本人のインスタグラムより)
《SNSで“インナーちらり笑”》元NHK中川安奈アナが森香澄の強力ライバルに あざとキャラと確かなアナウンス技術で「ポテンシャルは森香澄以上」との指摘
週刊ポスト
『ザ!鉄腕!DASH!!』降板が決まったTOKIOの国分太一(右/番組の公式サイトより)
《スタッフに写真おねだりか》TOKIO・国分太一は「コンプライアンス上の問題行為が複数あった」…日本テレビに問い合わせた結果
NEWSポストセブン
不倫が報じられた錦織圭、妻の観月あこ(Instagramより)
《錦織圭・モデル女性と不倫疑惑報道》反対を押し切って結婚した妻・観月あことの“最近の関係” 錦織は「産んでくれたお母さんに優しく接することを心がけましょう」発言も
NEWSポストセブン
お疲れのご様子の雅子さま(2025年、沖縄県那覇市。撮影/JMPA) 
雅子さまにささやかれる体調不安、沖縄訪問時にもお疲れの様子 愛子さまが“異変”を察知し、とっさに助け舟を出される場面も
女性セブン
インドのナレンドラ・モディ首相とヨグマタ・相川圭子氏(2023年の国際ヨガデー)
ヨグマタ・相川圭子氏、ニューヨーク国連本部で「国際ヨガデー」に参加 4月のNY国連協会映画祭では高校銃乱射事件の生存者へ“愛の祝福”も
NEWSポストセブン