西川文二氏は、1957年生まれ。主宰するCan! Do! Pet Dog Schoolで科学的な理論に基づく犬のしつけを指導している。その西川氏が、スポーツ万能だと思われがちな犬にも苦手なことがあると解説する。
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私めが小学生の頃の話。オヤジと海に行ってゴムボートに乗ってたら、砂浜にいたオヤジ溺愛の犬チャーリーが、なんとオヤジを追いかけて海の中を泳いできた。
そのとき思ったのは、やっぱり犬ってのは教えられなくてもみんな泳げるんだな、ってこと。でも、コレ、のちのち大間違いだってことに気づかされる。
ときは経て30年後、当時のパートナー犬プーを、初めて海に連れてったときのこと。腰高程度の深さのところから、彼を呼んだんですな。しかし、プーは波で足が濡れるのさえ避けてるようでして……いっこうに海の中に入らない。
犬は生まれつき泳げるってな、あのチャーリー浜、いやチャーリーの浜の記憶があったんで、このままじゃらちがあかないってことで、プーを抱いて海の中へ。で、そこで彼を離したんですわ。
すると、ワオ、なんてこったい、プーは前足で宙をかき、いわゆるひとつの、その溺れてるさまに。
そう、犬にもカナヅチがいるってこってす。犬は水の中でも4つ足で地面に立ってる姿勢を維持してると、浮かぶようになってる。
我々人間も、リラックスした状態で仰向けになれば海水なら浮かぶ。でも、体にチカラが入ると足から沈んできますからね。
考えてみれば、チャーリーはプードル。ご先祖様達は水辺の作業にかり出されてた。一方のプーはどんな血を引き継いでるのかわからない日本犬MIX。遺伝的な要因もあったんでしょうけどね。
※週刊ポスト2013年8月9日号