国内

弁当の路上販売 都では「人力で移行しながら」が求められる

 近年、都市部のオフィス街でよく見られるようになったのが「弁当の路上販売」だ。手頃な値段が設定され、ビジネスマンの強い味方となってきた。ところが、バカな規制強化によってこうした業態が姿を消してしまうかもしれないのだ。政策工房社長の原英史氏が指摘する。

 * * *
 平日のお昼になると、オフィス街では弁当の路上販売に行列ができる風景をよく目にする。こうした路上販売に対し、東京都が規制強化を検討する方針を打ち出し、ちょっとした騒ぎになっている。
 
 既に、都心の路上で弁当を販売している業者に対して、自治体の職員が、「立ち止まっての客待ちは違反ですよ」などと監視・注意するというシーンが見られるようになってきた。
 
 東京都では、昭和30年代に興行場(映画館、劇場、野球場など)での握り飯の行商が広がり、食中毒などの問題が生じた。このため昭和37年(1962年)に東京都の独自ルールとして、条例に基づき弁当類の行商が規制された。京都や埼玉などでも弁当類の行商が規制されている。また地域によって、例えば水産物の行商の多い地域では、それが条例で規制されるなどの例も少なからずある。

 地域の実情に応じたルールが策定されるのは悪いことではない。地域によって気候や営業実態も異なるのだから、それらに応じたルールを設け、食品衛生を確保したらよい。ただ問題は、実態に応じて食品衛生を守るための適確なルールになっているかどうかだ。これが残念ながら疑わしい。

 東京都の現行ルールでは、例えば、「人力により移行しながら販売」することが求められる。

 東京都が福祉保健局健康安全室長名で2007年に発出している「行商に関するQ&A」によると、これは〈人が一人で運搬できる量を運搬容器に入れて取扱い、客の求めに応じてその都度、商品や金銭の授受のために立ち止まる以外は、原則として、移行しながら販売すること〉を意味する。立ち止まって客待ちするなど、〈移行することなく特定の場所に留まって営業する形態は、行商を逸脱している〉ことになるとされ、許されていない。だから、東京都心のオフィス街では自治体職員が弁当販売業者に対し、「客待ちしないように」と指導している場面が見られるのだ。

 しかし、これは食品衛生を確保する観点でどういう意味があるのだろうか? 真夏の炎天下で、日陰にとどまって客待ちしていたら「動き回れ」と命じられるわけだから、逆に弁当がいたむリスクが増してしまうのでないか。

 本来、安全面を考えれば、「製造場所から販売場所までスピーディに運ぶ」「販売場所ではできるだけ衛生確保のできる地点を選ぶ」といったことを求めたほうがよさそうなものだ。しかし、現行ルールでは、「人力により人が一人で運搬」や「移行しながら」を求めることで、むしろ逆方向の規制になりかねない。少なくとも、「人力」や「移行しながら」を求めることは、食品衛生の向上に何らつながらないはずだ。

 東京都は、「一か所に留まって弁当を売る、ということになると店舗で売るのと同じことをしていることになり、許可が必要な行為となります。あくまで弁当を売り歩くというやり方についての届出制ですから、その範囲を逸脱しているということ」(食品監視課)と説明する。しかし、昭和30年代とはすっかり世の中が変わった中、「行商」という伝統的な概念を物差しとして、それを「逸脱」するかを厳密に論ずることに意味があるとは思えない。

※SAPIO2013年9月号

関連記事

トピックス

ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン