台風26号の上陸により伊豆大島で土石流被害が発生するなど、自然災害への備えが大きな関心事となっている。仮に、改善を求めていた川の堤防が決壊したような場合、行政に賠償責任はあるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏はこう回答している。
【質問】
以前から家の近所の川の堤防が脆くなっているので、市に改善を求めていたのですが、一向に動く気配もないまま豪雨により堤防の一部が決壊。私の家も床上浸水の被害に遭い、修繕にはお金がかかりそうです。このような場合、市民の訴えを無視していた行政側に賠償を求めることは可能ですか。
【回答】
河川の設置や管理に瑕疵があると、管理者は賠償責任を負います。瑕疵とは通常備えるべき安全性を欠いている状態ですが、河川は自然発生的な公共物で、道路のような人工的な場合とは同視できません。
国交大臣が管理する一級河川や知事が管理する二級河川は河川法の適用を受けます。その他、河川法の適用を受ける準用河川として指定された河川や、それ以外の河川(普通河川)は市町村長が管理者です。ご質問からは準用河川か普通河川であると思われます。
普通河川以外は、管理者が水害発生の状況や河川環境を踏まえて河川整備方針を定め、これに基づいて計画的に河川整備計画を立てます。しかし、河川はもともと洪水等の自然的原因による災害をもたらす危険性をはらんでいるうえ、予算や技術的な制約もあり、一遍に全部改修できません。
こうした河川の特殊性から、「財政的、技術的及び社会的諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準」として河川管理の瑕疵の有無を判断するのが原則です。
ですが、危険の予測ができるようになったときには、それ以後、その可能となった時点から水害発生時までに、その危険に対する対策を講じなかったことが許されるかどうかで瑕疵の有無を判断すべきであるとする考えもあり、その場合には、危険の予測可能性が極めて重要です。こうした考え方は、普通河川にも適用されます。
そうすると、堤防脆弱化の状況、その理由や決壊との関係、可能であった対応策等を検討し、大きな危険が予想され、簡単に対処できたといえる場合には、改善要求を無視した市には河川管理の責任を問えそうです。その検討には、専門家の協力が不可欠でしょう。
※週刊ポスト2013年11月8・15日号