ライフ

プア充拡大 280円牛丼、100円DVDなど上質なサービスが背景

 高収入を求めず、そこそこ働き自分の生活を充実させていく「プア充」という生き方を宗教学者の島田裕巳氏が提言し、注目を集めている。なぜ「プア充」が支持され、広がるのか。背景には戦後から続いてきた社会の仕組みが大きく変化したことがあるという。関西学院大学社会学部准教授で理論社会学を専攻する鈴木謙介氏(1976年生まれ)が解説する。

 * * *
 日本型雇用と日本人が共有してきた「成長のイメージ」は密接に関係していた。「正社員として入社し、定年を迎えるまで会社に勤めれば豊かになれる」という人生設計の階段(あるいはレール)が見えやすかった。昇進が決まったサラリーマンは「俺も今度は係長になるし、家を買おう!」といった考えを持てた。

 ところが、今の雇用環境を見ると、安定した正規雇用の口が少ないだけでなく、仮に正社員の職を得たとしても「出世の階段」の意味が大きく変わってしまった。かつては出世して中間管理職になれば、ある程度は部下に仕事を任せる「マネージャー」業務が主であった。

 ところが、近年は出世をしたとしても求められるのは「プレーイング・マネージャー」の役割だ。自らも成果をあげながら部下を管理する役割を求められるようになった。ビジネス環境の変化に加え、不況で採用人数が減らされてきたため、部下に任せるだけでは業務が回らない。
 
 そもそも正社員になれない若者は言うまでもなく、正社員の若者も「出世は忙しさや辛さに直結するもの」ととらえるようになってきた。これまで幸せだとされてきたライフコースが敬遠されるようになったのだ。

 これだけでは単なる「プア」にも思えるが、さらに要素として加えられるのが「プアでもそこそこ充実した生活が送れるサービス・環境の拡大」という点であろう。デフレが20年も続き、企業は安くてそこそこ質の良い商品を提供する努力を続け、そうしたサービスの質は格段に高くなった。

 昼食に280円の牛丼を食べ、100円払えばTSUTAYAでDVDを借りられる。高級ワインは飲めないけれども、2000円もあればスーパーで売っている格安ワインや第3のビールを友人たちと飲んで楽しむことはできる。高級品・サービスとの差異がどんどん感じにくくなってしまった。

 各種調査を見ていると「これからは心の豊かさに重きをおきたい」と考える国民の割合は、1970年代からおおむね上昇傾向で推移してきた。だが、結局は1990年代頃までの「心の豊かさ」とは、優雅に高級ワインを飲むといった「お金で買うもの」であった。

 それが1990年代以降の長いデフレ期間を経て、「お金」と「心の豊かさ」が本格的に切り離されるようになってきた。「プア充」が拡大することの本質はそこにある。

※SAPIO2013年11月号

関連記事

トピックス

山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
「とにかく献金しなければと…」「ここに安倍首相が来ているかも」山上徹也被告の母親の証言に見られた“統一教会の色濃い影響”、本人は「時折、眉間にシワを寄せて…」【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
マレーシアのマルチタレント「Namewee(ネームウィー)」(時事通信フォト)
人気ラッパー・ネームウィーが“ナースの女神”殺人事件関与疑惑で当局が拘束、過去には日本人セクシー女優との過激MVも制作《エクスタシー所持で逮捕も》
NEWSポストセブン
【白鵬氏が九州場所に姿を見せるのか】元弟子の草野が「義ノ富士」に改名し、「鵬」よりも「富士」を選んだことに危機感を抱いた可能性 「協会幹部は朝青龍の前例もあるだけにピリピリムード」と関係者
【白鵬氏が九州場所に姿を見せるのか】元弟子の草野が「義ノ富士」に改名し、「鵬」よりも「富士」を選んだことに危機感を抱いた可能性 「協会幹部は朝青龍の前例もあるだけにピリピリムード」と関係者
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
部下と“ホテル密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト/目撃者提供)
《前橋・小川市長が出直し選挙での「出馬」を明言》「ベッドは使ってはいないですけど…」「これは許していただきたい」市長が市民対話会で釈明、市議らは辞職を勧告も 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン
今季のナ・リーグ最優秀選手(MVP)に満票で選出され史上初の快挙を成し遂げた大谷翔平、妻の真美子さん(時事通信フォト)
《なぜ真美子さんにキスしないのか》大谷翔平、MVP受賞の瞬間に見せた動きに海外ファンが違和感を持つ理由【海外メディアが指摘】
NEWSポストセブン
柄本時生と前妻・入来茉里(左/公式YouTubeチャンネルより、右/Instagramより)
《さとうほなみと再婚》前妻・入来茉里は離婚後に卵子凍結を公表…柄本時生の活躍の裏で抱えていた“複雑な感情” 久々のグラビア挑戦の背景
NEWSポストセブン