だが、林をはじめとする開発陣にはアイデアがあった。まず、発泡ゴムのさらなる改良である。『ブリザック REVO GZ』では、「レボ発泡ゴムGZ」という特殊なゴムを採用してスリップの原因となる氷上の水膜を吸い取っていた。
新たに考え出したのは、発泡ゴムの無数の気泡の表面を、親水性の素材でコーティングすることだった。こうすることで路面の水膜が発泡ゴムの水路に流れ込みやすくなり、水膜が積極的に除去される=タイヤのグリップ力が高まる、というわけだ。
試行錯誤の末、ある親水素材が発泡ゴムに適していることを発見。「アクティブ発泡ゴム」と名付けられ、採用されることになった。
もうひとつは、新たなトレッドパタンの開発である。トレッドパタンを決めるにはコンピュータを使った複雑なシミュレーションを行なう。シミュレーションである程度の効果は予測できる。だが、それだけでは製品化できない。コンピュータが弾きだしたトレッドパタンのタイヤを試作してクルマに履かせ、実際に雪道で走らせて人間がチェックする必要があるのだ。
「冬は北海道などのテストコースで、そして春から夏にかけてはスケートリンクを借り切って実験しました。もちろん、私もハンドルを握りました。『現物現場』の実践です」
「現物現場」とは、同社の企業理念のひとつである。
「『現物現場』とは、現場に足を運び、“真実”を自らの目で確かめること。私が大切にしている言葉です」
「アクティブ発泡ゴム」と新開発のトレッドパタン「新・非対称パタン」の実現で、最初に掲げた目標を見事クリア。スタッドレスタイヤの“頂点”『ブリザック VRX』は、『ブリザック』シリーズの節目となる今年、満を持して発売された。
■取材・構成/中沢雄二
※週刊ポスト2013年11月29日号