野球の指導方法も全く違う。たとえばチャンスに凡退すると日本なら「ドンマイ(気にするな)」と掛け声をかけるが、アメリカでは「Good try!(よくぞ挑戦した)」という。とにかく三振しても見逃しでなく、積極的で力強い空振りだと「Good try!」。バッティング技術では、「とにかく遠くに飛ばすこと」が尊ばれる。ゴロを打てば1点、みたいなケースでも外野にラインドライブを打てば応援席は盛り上がり、コーチ陣も「転がせ」としかったりしない。
「とにかく失敗しても挑戦したことへの評価が高く、『Good try!』は小学生に限らず高校生でもあります」
ちなみにトライアウトは中学・高校でも野球部はもちろん、スポーツにかかわらず人気の部活で必ずある。小国さんの知人の娘さんは、小学校の吹奏楽部の先生から「あなたのトランペットの実力では中学の部活で入部できないかもしれないから、今のうちに競争率の低い楽器に変えた方がいい」とアドバイスされたとか。
「アメリカの全部がいいとは思わない」という小国さんが、もっとも違和感があったのがカネの問題だった。トラベルチームのコーチは保護者のボランティアでなく野球でご飯を食べている「プロコーチ」。野球にかかる費用は1シーズン(2ヶ月半)の間で、1000ドル近かった。
「日本では月2000円程度で少年野球が出来たのになぜ、ですよ。しかも車社会なので子どもの送り迎えで親も必ず加わらなくてはいけない」
さらに驚くがのがプライベートレッスンという存在。なんと自分のチームのプロコーチに別途料金(!)を払って、個人レッスンを受けるシステムが一般的なのだという。
「えっ『みんなのコーチ』をお金払って雇って構わないの?と驚きました。しかも冬場だと室内の施設使用料も含めてレッスン代が1時間100ドルにもなる」
小国さんはいう。
「アメリカは激しい競争社会なんですが、失敗しても挑戦を讃えてもらえるし、選択肢が豊かなのでどんな子どもでも居場所をが見つけられるのが素晴らしいところです」
「日本の少年野球は、野球を通して友情やチームプレイ、礼儀などの学んでいくことが大事にされます。一方、アメリカでは野球は教育ではなく、あくまでスポーツだから、スポーツマンシップを尊べとか、審判に敬意を払え、とは教えられますが、楽しむことがやっぱり一番大事にされる。日本の方が良い点もいっぱいあるけど、全員が打席に立てる方式と『Good try!』と挑戦することを積極的にほめる姿勢は日本に取り込んでもいいのでは」
少年野球を通じて、アメリカ人はこうして「誕生」するのだ。