2場所連続4度目の優勝を果たした大の里
5月場所で初めての綱取りに挑んだ大関・大の里が2場所連続4度目の優勝を果たし、横綱昇進を確実なものにした。初土俵から所要13場所という史上最速綱取りがなるかをめぐっては、様々な思惑が交錯していた。相撲ジャーナリストが言う。
「8月の大阪・関西万博巡業、10月のロンドン場所と世界に国技・大相撲をアピールするチャンスに横綱の土俵入りは不可欠。救世主のように1月場所後に横綱に昇進したのが豊昇龍だったが、昇進場所で途中休場。下位力士に弱いひとり横綱として“金星配給王”になっており、早く2人目の横綱を誕生させたいというのが協会の本音だった。場所前から、昇進のハードルは下がり、12勝以上なら準優勝でも昇進という想定もされていたといわれます」
ただ、場所前は精力的に稽古に取り組んでいた豊昇龍に対し、大の里については「稽古不足」とも伝えられていた。相撲担当記者が言う。
「5月1日の二所ノ関一門の連合稽古には体調不良で欠席し、翌2日の稽古総見でも16番とって6勝10敗。巡業でも稽古量が少なく、豊昇龍から『横綱、大関は若い者に稽古で胸を出してやらないといけないんだ』と説教されたほど。巡業担当の親方も『稽古に入らない』と嘆いていた。
稽古総見後には、八角理事長(元横綱・北勝海)が境川巡業部長(元小結・両国)を呼びつけて巡業での大の里の稽古内容を聞いたほど。逆に、豊昇龍は横綱かと思うほど巡業や出稽古で番数をこなしていたが、本場所では序盤で取りこぼした。結局、稽古をやらない大の里が一番活躍している」
八角理事長も場所前から大の里をめぐって気を揉んでいたというのだが、その空気は周囲にも伝播したようだ。協会関係者が言う。
「場所前の稽古不足が心配されただけでなく、大の里が序盤に取りこぼしが多いことで、綱取りのプレッシャーも懸念されていた。そのためか、当初は取組編成会議で高田川審判部長(元関脇・安芸乃島)が序盤に大の里と相性がいい相手を当てようとしたという話もあります。序盤の対戦がありうる相手の中では、大の里が1度も負けていない霧島(対戦成績6勝0敗)がいたし、大栄翔(同6勝1敗)とも合い口がいい。
ただ、実際には取組編成の慣例を重んじる他の親方衆の考えもあって、初日に横綱の豊昇龍に西小結の若隆景を当てることになると、大の里にはその半枚下の東前頭筆頭で、先場所黒星を喫している若元春(同4勝2敗)との取組が組まれた。2日目も同様に東小結で2場所連続黒星を喫している高安(同0勝2敗)となり、3日目以降も阿炎(同3勝3敗)に、2連敗中の王鵬(同3勝2敗)と、苦手とする相手との取組が続いた」
そうして難敵揃いとなった序盤を大の里は見事に突破して見せた。むしろ、「金星を配給してばかりの豊昇龍に、そのうち協会が引退勧告を検討するのでは」(同前)との声まで出ているというから、角界の評価の変化のスピードも凄まじい。
※週刊ポスト2025年6月6・13日号