なぜ、こういう話になったかといえば、根本的な理由は農水省が農家=生産者の顔ばかりをみて、家計や消費者を見ていないからだ。資料の冒頭には、こう書いてある。
「行政による生産数量目標に頼らずとも、生産者や集荷業者・団体が中心となって円滑に需要に応じた生産が行えるよう行政、生産者団体、現場が一体となって取り組む」
つまり「コメ需要は減っているが、政府も農協などと一体で取り組むから(経営は)大丈夫ですよ」と言っている。資料に「家計」とか「消費者」という言葉は一切、出てこない。ひたすら生産者の立場に立っているのだ。
農家への補助は相変わらず手厚い。たとえば、農地や水路の維持管理や質向上には多面的機能支払という補助金を新設する。賃貸を仲介する農地中間管理機構に農地を貸した農家には「協力金を支払う」という項目まである。リース収入とは別の「つかみ金」であるかのようだ。
これは、たしかに「政策の大転換」かもしれない。ただし、どこまでも農家に甘い誘導策だ。消費者への恩恵は乏しい。税金の使い道はもっと他にないのか。
(文中敬称略)
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『政府はこうして国民を騙す』(講談社)。
※週刊ポスト2013年12月6日号