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煙草の臭い消しに清掃代金請求 転居者に支払い命じた判例も

 近年、スモーカーの肩身はすっかり狭くなり、自宅にいても換気扇の下やベランダでタバコを吸っている人は少なくない。タバコを吸わない人は、煙はもちろんあの臭いも忌み嫌うが、煙草の臭い消しに高額の清掃代金を請求された場合、支払うべきなのだろうか? 弁護士の竹下正己氏はこう回答している。

【質問】
 引っ越しの際、大家から臭い消しのリフォーム代金15万円の請求を受けました。私がヘビースモーカーのため、通常の清掃では壁などに染みついた煙草の臭いが消せないからとの理由でした。しかし、賃貸の契約書には部屋での喫煙禁止は記されていません。それでも15万円を支払わなければいけませんか。

【回答】
 借家契約の終了時の原状回復義務の範囲には、原則として通常の使用による損耗は含まれません。建物は、借家人が使用することで必然的に損耗し、大家には減価償却や修繕などの費用が生じますが、普通、賃料には、大家の利益だけでなく、通常損耗の対価分である経費も含まれていると考えられるからです。

 通常損耗分の原状回復まで賃借人に負担させるのは、予期しない特別の負担を課すことになり、最高裁は、そのための特約(「通常損耗補修特約」)が必要であるとしています。

 具体的には、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、または賃貸人がそのことを口頭により説明し、賃借人が認識し、それを合意の内容としたものと認められるなどして、明確に合意されていることが必要です。この合意がないと、通常の使用方法では生じないような特別な損傷の場合のみ原状回復義務があります。

 ご質問では、特約はないので、最高裁の基準からすると、原状回復義務として消臭代を負担する必要があるかどうかは、臭気が通常損耗の範囲かどうかにかかってきます。禁煙の約束はなく、喫煙は自由ですから、煙草の臭いが残っても、普通は、通常損耗といえるでしょう。

 しかしながら、煙草のヤニが壁や天井にこびりつき、ハウスクリーニングでも取れなかった場合で、通常損耗を超えたとしてクロス張替代相当の原状回復義務を認めた裁判例もあります。ヤニと違って臭いは目に見えませんが、禁煙が世間の風潮になっている昨今、程度によっては、通常損耗を超えていると判断されるかもしれません。

 大家も禁煙や通常損耗補修特約を契約書に盛り込まなかった点に不備もありますから、一度話し合ってみてはいかがでしょうか。

※週刊ポスト2014年1月1・10日号

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