ライフ

ネットで自殺予防の相談 「命の番人」を続ける若者の真意は

 たったひとりで、ネットで自殺願望を持つ人からの相談を続けている若者がいる。取り組みは世界の研究者から注目も集めている。彼はなぜ、そのような取り組みを始めたのか。コラムニスト・オバタカズユキ氏が取材した。

 * * *
 唐突で恐縮だが、「死にたい」と思ったことはあるだろうか。あるいは、もう生きるのがつらくて「助けて」と叫んだことはあるか。

 そうした心のSOSを、スマホで検索エンジンの窓に打ちこんでみたとする。すると、例えば「死にたくなったあなたへ」というサイトの広告が、検索結果の上のほうに表示される。

 クリックしてみたら、メール相談を受けつけますとの案内。気軽に自分のつらい思いを書きこめる画面なので、「すべてがイヤなんです!」というような文言を打ちこむと、ほどなくして相談員から「どうしましたか?」とレスが来る。

 人によってはそこで終わる。でも、人によってはそこから数十回のメールのやりとりが行われる。そして、相談員が必要と判断した場合、うつ病診断サイトでのチェックを勧められ、精神科病院の受診を検討してはどうかと提案される。お金の問題がからんでいる場合は、生活保護の申請の手続きを教えてくれることもある。これらすべて無料で――。

 おそらく日本で、いや、世界でもまだ誰も手がけていないそんなネットの自殺防止活動を、一人で立ち上げ、一人で運営している20代の男がいる。その名はJiro ITO。当記事のUP段階では、「OVA(オーヴァ)」というNPOを立ち上げるべく奮闘中、その第一歩としてブログの「壁と卵」を開設したばかりだ。

 数か月前にその存在を知った私は、「社会貢献をしたい若者が増えているというが、まあ、自殺防止活動を一人でやるとは怖い者知らずだ。面白い!」と勝手に盛りあがって、Jiro氏の動きを追っていた。そのうちネット界で話題にする人もだんだん増えてきて、ついに先日、「世界デビュー」を果たしてしまった。

 年の暮れも押し迫る12月16~18日、東京・秋葉原の巨大複合型オフィスビルで行われた「WHO世界自殺レポート会議及び関連行事」なる大イベント。2020年までに世界の自殺死亡率を10%減少させる目標に向け、世界各国から自殺防止の研究の専門家たちが集結するグローバルな学術会議だ。その最終日の午前プログラムで、和光大学専任講師の末木新氏が「インターネット・ゲートキーパー」(インターネットを使った「命の番人」ぐらいの意味)と題して、Jiro氏の活動を報告した。

 さあ、世界の頭脳がJiro氏の挑戦にどう反応するか。この目で見たくて寝不足の私も出かけた。会場には、白いお髭をたくわえたザ・サイコドクターといった風貌の外国人がたくさんいた。末木氏の研究報告は堂々しており、150人ほどの参加者たちが熱心に聞き入っていた。

 報告が終了するやいなやスタンディングオーベーション、とはならなかったが、休憩時間になると、末木氏のもとに外国人研究者が何人もやって来た。実際の運用の仕方についての質問などが投げかけられたという。手ごたえは上々だったようである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
女性セブン
山下智久と赤西仁。赤西は昨年末、離婚も公表した
山下智久が赤西仁らに続いてCM出演へ 元ジャニーズの連続起用に「一括りにされているみたい」とモヤモヤ、過去には“絶交”事件も 
女性セブン
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン