この日、私は、生のJiro氏とはじめて会った。パッと見は、昭和の野球部員がそのまま10年ほど歳を食いましたといった感じの青年だった。印象はいわゆる体育会系。ノートパソコンを片手に会場内を落ち着きなく動き回っているところを捕まえ、昼食に誘った。「なんでまた、こんなことを始めたのか」と、直接、彼の口から聞いてみたかったのだ。

「今年(2013年)の6月に、若者の自殺が増えていることを知りました。約半数の死因が自殺である、と。はじめて知ってショックだったのですが、同時にその防止方法を思いついたんです。だいたいの若者は1日中、スマホを使っています。自殺をしようとする人は、スマホで『死にたい』と打ちこんだり、自殺方法を検索するはず。ならば、そこにこちらから介入して、医療施設などにつなげればいいじゃないか、と」

 Jiro氏は大学卒業後、EAP(従業員支援プログラム)企業に就職、精神保健福祉士や産業カウンセラーなどの資格を取得して、精神科クリニックでソーシャルワーカーとして働いていた時期もある。IT知識を身につけ始めたのはわりと最近のようだが、スマホの自殺防止方法が思いついて間もなく、「とりあえずやってみよう」と動き出したとのこと。

「まったく1人で前例のないことをやり始めたので、最初はすごく不安でしたよ。でも、スタートしたのが7月14日で、その3日後にやってきたひきこもりの方の相談が、すんなり精神科の受診につながったんです。あっ、これは価値のある方法だと感じることができて、そのままずっと『夜回り2.0』と称して活動を続けています」

 相談のやりとりはメールだけで行っているのか。これまで何件ぐらいの相談をしてきたのか。

「9割5分はメールです。自殺の緊急性がすごく高くて、かつ、相談してきた方が希望する場合は電話も使います。でも、それは例外ですね。これまでの相談件数は、今、150件くらいになっていると思います。最多で一人の方と、150回以上やりとりをしたこともあります。ずーっと相談し続けている日々ですよ。正直、相談活動中は、私が鬱みたいになっているな、と思うこともたびたびです……」

 どうしてまたそこまでエネルギーを注いでいるのか。

「いろんな理由がありますが、僕自身、青春期に死にたいと思っていたんです。パソコンをつけては自殺サイトばかりをめぐっていた時代があったんですね。だから相談してくる方の目線で、こういうサービスを作れたのだと思います。昔の自分を救いたいみたいな気持ちは正直ありました」

 ありました、ということは、今はないのか。

「ええ、相談してきた方を“救う”っていう考えは傲慢だし、そんな簡単にできることでもありません。それと、『夜回り2.0』はお金になりませんから、並行して起業をするつもりなんです。自殺防止活動を持続させるためにも、稼げるビジネスモデルを早く確立したいです」

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