世界王者が言葉を発すれば、誰もが耳を傾けてくれる。だからこそ、自分のためだけでなく、他者のことを考える。何かを恐れて萎縮したり、人の影に隠れてこそこそなんてあり得ない。時には人がやりにくいことにも敢えて挑み、耳が痛いような課題にも正面から向きあう。それが本当の「チャンピオンになる」ということだ、と山口さん。
「金メダリストになれたからこそ、これから復興のためにできることがあるはずです」
メダル授与後の記者会見で羽生選手がそう語った時、あっ、これこそ山口さんから聞いた「チャンピオン」の素質というものではないかと、私は心を強く揺さぶられたのです。
オリンピックで勝利を目指す選手たちの努力は素晴らしい。でも、栄冠を手にできたとすれば、それは選手が持っている才能という翼に、さらに風を送りこむ「誰か」他の人たちがいたということ。だから、栄冠を手にしたら、その力を今度は自分以外のものへと循環させていく。戻していく。与えて、与えられ、また与える。
「震災の復興に役立ちたい」という言葉は、そうした「循環」を意味しているのではないか。チャンピオンにふさわしい人間へむかって、羽生選手が力強い一歩を踏み出した証ではないか。
今回のソチ五輪から私たちが受け取った、輝かしき収穫です。