いまの全農は協同組合だが、改革案はこれを「株式会社」に改組すべきだ、と提言した。その理由を、提言は「全農がガバナンスを高め、グローバル市場における競争に参加するため」と書いている。
実は、この裏には秘めた狙いがある。全農に対して独占禁止法を適用するのだ。いま全農は協同組合であることを理由に独禁法の適用を一部、免れている。たとえば農家が作った農産物を農協がまとめて販売したり、生産資材や肥料について農家の注文をとりまとめて購入できる。
この共同販売や共同購入が「やる気のある農家」の意欲をそぐ一因になってきた。農協以外に出荷しようとすると嫌がらせをしたり、農協以外の業者が生産資材を販売しようとすると、あの手この手で妨害する例があった。
公正取引委員会は目に余る行為には「不当な取引制限」や「拘束条件付き取引」として警告や排除命令を出してきた。だが株式会社化されれば、独禁法が全面適用され、共同販売や共同購入も取り締まりの対象になる。
そうなると、全農としては農産物を扱う商社などと同じ土俵で競争し勝ち抜かないと生き残れない。農家はどこから肥料や農機を仕入れ、生産物をどこに売るか自由に判断できるようになる。結果的に生産性も上がるだろう。
もちろん一朝一夕にはいかないだろうが、そういう競争条件を整えることが規制改革の本来の狙いである。ここは政権の勝負どころだ。
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。
※週刊ポスト2014年6月6日号