ライフ

誰もが避けて通れない死と真摯に向き合った中村うさぎの新著

【書評】『死からの生還』中村うさぎ/文藝春秋/1728円

【評者】平山香里(ブックファースト蛍池店)

 中村うさぎが緊急再入院。生死の境を彷徨う──3月末、そのニュースを目にして最初に思った。「彼女が復帰したら、今度は“死”をテーマにした作品を扱うだろう。誰もが避けて通れない“死”と真摯に向き合ってくれるに違いない」と。そんな身勝手な願望は本書で確かに叶えられた。

 著者を初めて知ったのは、『ゴクドーくん漫遊記』(1991年刊)などのヒット作を手がける人気ライトノベル作家として世に出てきた頃。ライトノベル自体がまっとうな読書人には見向きもされない時代に、未成年の少年少女(当時の私も含む)が本当に読みたい物語を書いてくれる、“ヒーロー”のような存在だった。

 そんな作家が、ブランド品を買いまくるはっちゃけた借金エッセイストになっていると知った時は心底驚いた。けれど、エッセイはどれも本当に面白く、大人になってもう一度ファンになった。それからずっと読み続けている。

 買い物依存・ホストクラブ通い・美容整形や豊胸手術・デリヘル嬢として風俗店勤務…とショッキングで生々しい実体験を重ね、それらを露悪的に書こうとも、私の中で彼女はあの頃と変わらず“ヒーロー”のような作家である。彼女は読者を裏切らない。どんな時も私たちが本当に読みたい作品を書いてくれる。だから、本書を手にしたときは嬉しくて仕方がなかった。

 彼女の言葉には嘘がない。他人から見てどんなに馬鹿なことを繰り返していても、彼女自身は常に客観性を見失わず、己の愚かさを冷徹に分析する。一見愚かな行為は、すなわち私たちの愚かさとまるで同じなのだと、読者は読んでいるうちに気づく。そう、彼女の作品はまるで鏡のようなのだ。覗き込むと私たちもまた自分の虚勢や傲慢さに直面することになるのだから。

 本書の中で彼女はこう語る。一度死にかけ、東日本大震災の日を迎えたとき、〈日常なんかどこにも存在しなかったのだ。(中略)唯一確実なのはいつか死ぬという日付のわからぬ未来だけなのである〉と。しかしこうも語る。〈人間はひとりでは生きていけない。そのことを謙虚に受け入れてなにが悪い〉。正しくなくてもいい、正直であれと彼女は言う。その正直さに救われている読者はきっと多いはずだ。もちろん、私も含めて。

※女性セブン2014年6月12日号

関連記事

トピックス

愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
嵐について「必ず5人で集まって話をします」と語った大野智
【独占激白】嵐・大野智、活動休止後初めて取材に応じた!「今年に入ってから何度も会ってますよ。招集をかけるのは翔くんかな」
女性セブン
不倫騒動や事務所からの独立で世間の話題となった広末涼子(時事通信フォト)
《「子供たちのために…」に批判の声》広末涼子、復帰するも立ちはだかる「壁」 ”完全復活”のために今からでも遅くない「記者会見」を開く必要性
NEWSポストセブン
前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
昨年ドラフト1位で広島に入団した常広羽也斗(時事通信)
《痛恨の青学卒業失敗》広島ドラ1・常広羽也斗「あと1単位で留年」今後シーズンは“野球専念”も単位修得は「秋以降に」
NEWSポストセブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
元工藤會幹部の伊藤明雄・受刑者の手記
【元工藤會幹部の獄中手記】「センター試験で9割」「東京外語大入学」の秀才はなぜ凶悪組織の“広報”になったのか
週刊ポスト