ファッションプロデューサーの植松晃士さんが、おばさまたちが美しく生きるためのアドバイスをしてくれます。今回は「他人への配慮」についてのお話です。
* * *
少々前のお話ですが、ある女性に「歯医者さんを紹介して」と頼まれてご紹介しました。とても人気の歯医者さんなので予約も取りにくいから、私から「○○さんというかたから予約が入るのでよろしくお願いします」とご連絡して。
ところが後日お目にかかったときに「どうだった?」と聞いたら、「あ~、あれねぇ。ネットでよさそうな歯医者さんを見つけて、そっちに行っちゃった」とまったく悪びれるふうもなくにこにこと。びっくりしたなんてもんじゃありません。
もしかして、これぞ本物の忍法“すっとぼけの術”で、私にお礼を言いたくない、借りをつくりたくないと後から思ったのかしら。それで「やーめた」と思った? だとしたら私の立場はどうなるの?
と、わずか1秒ほどの間に頭はフル回転。で、結局、私はなんて言ったと思います?
結論としては、何も申しませんでした。本当は「私が紹介して差し上げた歯医者さんのほうはどうしたの?」と言いたかった。でも、“竹馬の友”でもない人に立ち入ったことを言わないのが、大人のたしなみです。
そのとき気づきました。これぞ、“封印の術”ではないかしらと。相手が言いたいことをわかっていながらあえてスルーして、口封じをしてしまうの。こちらの好意を逆手に取る、“すっとぼけの術”の上級編ともいえます。
こういうかたって、人のためにひと肌脱ぐことはめったにないんですけど、ご自分が何かしたときは、大げさなくらいにアピールなさる。「すっごく大変だったけど、植松さんの“頼み”だったから、頑張ったわよ~」などと言って。
もしかしたらご自分が“アピールオバさん”だから、苦情を言わない控えめな人間の気持ちはくみ取れないのかもね。
一方、ほんの少し便宜を図って差し上げただけで、次にお目にかかったときに、さり気ないお礼のお品とともに感謝の言葉を言ってくださるかたもいます。
お礼のお品は1000円とか、せいぜい2000円くらい。「お返しの必要がないように」という、これもまた行き届いたご配慮なのです。
このように“微笑みの術”プラス“つけとどけの術”が、最強の「くノ一忍法」ではないかと私は思っています。
オバさん、万歳!
※女性セブン2014年6月19日号